鮮やかに蘇る



小さい頃からあまり感情を出さない子供だった。いや、出さないは少し違う。出せない、子供だった。

それは私の育ってきた環境が関係していると思う。


7人兄弟の上から3番目で、この世に生を受けた瞬間から私の殺し屋へと向かう運命は決まった。


人には向き不向きと言う物があるが、どうやら私には殺し屋は向いていて、才能があるらしい。

しかも一族が始まって以来、例を見ぬ程に。

大きくなるにつれて私はどんどん期待をされるようになっていった。


気持ちとは裏腹に周りの期待を背負い、日々家業に明け暮れていた。弟や妹も生まれたが、何処か私とは違っていた。


その兄弟達の中でも唯一、私を1人の姉として慕ってくれていたのが2番目の弟だった。

失敗ばかりして、殺し屋一家の中では所謂出来損ないと呼ばれた2番目の弟は、よく笑って、よく泣いていた。


最期にあったあの子は、どんな顔をしてたっけ…。


もやもやと気持ちばかりが先に立つ。思い出せず、気分が悪い。私は、弟をちゃんと見た事があっただろうか。


考えても思い出せぬまま、ユキの視界が急に白く霞んでいく。特に抵抗も出来ず、また、抗う気分にもなれずユキは意識を失った。


「(…っ!!!)」


引っ張られる様な感覚を味わってすぐ、ユキは目を開けた。

よく手入れをされている、ホコリや汚れひとつ付いていない綺麗な天井。右手左手、そして両足が動くかを小さく確認する。

生きているのか、死んでいるのか分からない状態ではあるが、きっと前者であろう。ユキの勘がそう告げている。


五体満足に、ユキは今、確かに生かされていた。


「…あ、起きたぁ?…っと、危な、急に起き上がったらだめだろ。オレの電気をまともにくらったんだからさ。」

「うっ、うぅ…」

幼い頃から仕込まれた反射で、無意識に声の主へと攻撃する為に起き上がる。

バランスを崩し、倒れかける体を支えて貰う。不覚だ。

払い除けようとするも、グラグラとする視界では思った様に体は動かない。そんなジレンマにユキは苦しむ。


「おねぇーさん、名前なんてゆーの?」

揺れる視界で、声の主の姿を確認する。
…やはり、キルアだ。


「なんで、殺さないの…っ!」

今出せる、ありったけの声で叫ぶ。

掠れ気味の自分の声は余りにも滑稽で、既にはち切れた行き場の無い感情は消え去り、どこか冷静になれた。

「だって、あいつに頼まれたんだもんオレ。姉貴を宜しく頼むって。」

「あいつ…」


言わずもがな、キルアが誰の事を言っているのかユキには理解出来た。


「あんたを見れば見るほど、お前らほんとよく似てるんだもん。あいつ、ほんとに男かってほど綺麗な顔してたし。」


…2番目の弟だ。

私達は一族からも、それはよく似ていると言われていた。

もちろん同じ血を分かつ兄弟なのだから、似ていて当たり前なのだが、他の兄弟たちとは比べ物にならないくらいに私達は似ていたのだ。


「…そう。よく、見ているのね。私の名前は、ユキ。ユキ・シャンティエラ。」

「ふーん。オレ、キルア!やっぱりあんたがユキなんだな。危なかったぜー!さっきは本気でやばかったし。本気で殺されるかと思ったから、つい全力で電気流しちまった。」


ユキが寝かされているベッドの横で、高級そうな椅子に胡座をかきながら座り話すキルア。


命を狙ってきたユキに対して、殺意や警戒心など塵にも感じない。一体どういう意図なのだろうか、そしてここは何処なのだろうか。


素直に聞いたところで答えて貰える確率は低い。ならば自分で情報を探ろうと考えたユキは、喋るキルアの話を聞きながら、目で探る。

だが、意外にもユキの行動はキルアに完全に見透かされていたようで、まるで頭の中の疑問を覗いたかのようにスラスラと話し始めた。


「ここはオレの部屋さ。ちなみに、窓は4つある。だけど逃げ出そうとしても、血眼で探し回ってる屋敷の執事達にどうせすぐ見つかるぜ。オレん家の執事達はそこらのハンターより強いからな。」

オレだって屋敷から逃げだそうとした時、あっさり捕まっちまうぐらいだし。と、唇を尖らせながら面白くなさそうにキルアは言う。


「だけど、だ。ここはオレの部屋だ。だから、許可なく執事達も兄弟達も入ってこないぜ?大人しくしておいた方が、身のためだと思うけど。」

確かにキルアの言う通りである。下手に動き回るより、逃げ出せる機会を窺う方が賢明だろう。




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