鮮やかに蘇る
人は何故生きるのだろう。
その答えを知る人はこの世界にいるのだろうか。
ふと、そんな事を考える。
一方的に人の命を奪う仕事をしている自分がそのような事を考える自体、おかしな話である。
しかし、時にどうしようも無く、気になってしまうのだ。
足元に転がる、かつて"人だったモノ"を見る。
ソレは間違いなく自分が命を終わらせた相手で、最期の表情を残したまま、ただの"モノ"となっていた。
ユキ シャンティエラは殺し屋だ。
一族代々続く、名誉ある、殺し屋なのだ。
家業を継ぐために生まれ、なんの疑いも持つこと無く、敷かれたレールの上を歩いてきた。
どんなに難しいターゲットであっても、依頼があれば必ず遂行するし、そこにどんな理由や理屈も必要ない。
それが当たり前だと教わってきたし、疑問など抱く事はなかった。
「2番目の弟が死んだ」
そう聞いたのはついこないだの事。血の繋がっている家族と言えども、何処か他人行儀で関わり合わない関係の家族の中で、唯一、よく会話していた弟だった。
親はことある事に言っていた。「あいつ(2番目の弟)は優しすぎる。必ずその優しさが仇になる。」と。
どうやら、ターゲットに肩入れし過ぎて躊躇したらしい。正面から心臓を一突きされ、即死。
相手を殺す事において、理由や理屈は必要ない。例え子供であろうが、見知った顔であったとしても。
そんな2番目の弟の事が、バカだなと思いながらもどこか人間らしくてユキは好きだった。
屋敷の中での異常事態をようやく感知したであろう人々の、バタバタと忙しなくこちらへ向かう足音を微かに捉える。まだ遠い、されど時間はない。
なんせ、ここは暗殺家業を営む名門ゾルディック家の敷地内なのだから。
息を潜めて"絶"を使いながら進む。
オーラを見えにくくする"隠"ではなく、念を出さない"絶"で移動する。
もし念を使える奴に襲われたら…
無防備にも程がある、といわれるであろう。
しかし、それが私の覚悟なのだ。
ここゾルディック家の敷地内では、半端な覚悟ではすぐに見つかって終わってしまうだろう。
念を使える者などこの家にはごまんといる。
それは、長く念を使ってきたユキにとって、極小量のオーラであっても察知できる所謂"野生の勘"の様なもので、確信を持っていた。
更に殺す為の術として当然に身についている、音も無く歩く"暗歩"で限りなく気配を隠し、ターゲットを探す。
今回のターゲットは、ゾルディック家三男の"キルア・ゾルディック"だ。
長く続く暗殺名家、ゾルディック家の歴史の中でも随一を誇ると称される天才。
暗殺名家と代々続く殺し屋。
どこか似たような境遇で、しかし相見える事などない私でも、キルア・ゾルディックの話は噂で聞いた事があった。
そんな奴を殺せるのだろうか。いや、そんな奴だからこそ…だ。
己の限界を自分で決めてはならない。私の代わりなど、沢山いる。
情報を集めて、致命傷を与える。もしくは、息の根を止める。それがダメなら、死んでもなお情報を持ち帰る。
耳が腐るほどに聞かされた、我が一族に言い伝えられている掟だ。2番目の弟は、そういった意味でも帰ってくる事はなかった。
ゾルディック家に潜入したのにも関わらず、情報ひとつも持ち帰れなかった。優しさが仇となった結果なのだ。
そういえば、弟はゾルディック家の三男と同じくらいの年齢だったような気がする。死ぬのには早すぎる年齢だった。
ターゲットとして何度か会っていた様で、度々話は聞いていた。ターゲットの話をするあの子は、何故か楽しそうで訝しく感じたっけ。
見るからに高級だと分かる赤い絨毯が敷かれている、長い長い廊下を壁伝いに歩きながら進んで行く。