手と手



カラハ・シャールのホテルに着いて部屋に入ってホッと一息ついた時に
「明日は待ち合わせデートをしよう」
笑いながらアルヴィンが僕の肩に腕をまわしながら言い出した。
「どういうこと?」
「まぁいいからいいから、じゃあ明日は中央広場に10時ってことで。」
同じホテルに泊まってるのにわざわざ外で待ち合わせなんて。
いったいアルヴィンは何がしたいのかいまいち意味がわからない。
でも嬉しそうに笑いながら言うアルヴィンにNOとは言えなくて、
「わかったよ」
とコクンと一度頭を上下に動かして了承した。
本当のところ実はちょっとだけ楽しみでもあった。
だって…だってそんなのまるで本当に恋人同士みたいじゃないか。
いや、僕はアルヴィンが好きだって伝えてあるしアルヴィンも好きだよって言ってくれてるんだけど。
だけど室内で2人きりの時に抱き合うことはあっても、外で待ち合わせなんてしたことがなかったから。
外で二人でいられるなんて買出しに行くと託けて二人で出かける時くらいだ。
世の中の普通の恋人同士なら普通にするのであろうデートも、男通しの僕たちはなかなか出来なかった。
まぁ、アルヴィンはあまり気にしてないのかもしれないけれど。

次の日、約束は10時なのに30分も前に待ち合わせ場所に着いてしまった。
なんだか落ち着かなくて昨晩はあまり寝れなくて。
これじゃあまるで旅行や遠足の前日にわくわくして寝れない子供みたいじゃないか。
そう思うとつい笑ってしまった。
なんだか僕は僕が思っていた以上に『待ち合わせデート』が楽しみだったみたいだ。

そんなことを考えているうちに
「わりぃ、待たせた?」
アルヴィンの声が後ろから聞こえた。
「ううん、僕が早く着いちゃっただけだから」
振り向きながらそう答えた僕の目に最初に映ったのはいつものアルヴィンの顔…じゃなかった。
いつもより優しそうに笑う口元だとか、悪いなって言いながら僕の頭にポンって乗せる手の優しさだとか。
こんなアルヴィン、僕は知らないし見たことない。
あまりにビックリして僕は硬直してしまったんだけど、そんな僕を見てアルヴィンは更に嬉しそうに笑った。
「たまには待ち合わせも新鮮でいいもんだろ。
 それにほら、俺だってたまには可愛い恋人との待ち合わせデートを自慢したくなるときだってあるんだよ」
そんなことを平気で言うアルヴィンに反して僕は自分の顔が真っ赤になっていくのがわかった。
「な、なに言って…っ、ちょ、ちょっと手」
挙句の果てにアルヴィンは手を繋いできて、そのまま歩きだそうとする。
焦って回りを見渡しながらなんとか離そうとするんだけど
「大丈夫だって。
 これだけの人ごみだし誰も俺たちのことなんて気にしてないし見てないから。
 そんなことよりさ、 今日はどこに行くよ青少年?」
そんな風に言い出したアルヴィンに僕は軽くため息を吐くと手を離すのを諦めた。
だって僕だって本当は繋いだ手を離したくなんてなかったんだから。
ただ慣れないことにちょっと動揺してしまっただけで。
「どこでもいいよ」
繋いでる手を見つめながら答えた。
ほんとにどこでもいいんだ、アルヴィンが一緒ならどこだって幸せで楽しいに決まっているのだから。


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