聞き分けのいい子供



そう、それはいつからか・・・たぶん物心ついた時からずっと僕は聞き分けのいい子供
だった。
たいして我侭を言ったこともなければ、思い通りにいかなくて泣き喚いた覚えもない。
確かにミラと一緒に行動するようになって、少しは変わったかもしれないけれど。
でも父親に反抗した時だってミラを助けたくて必死だったけど、こんな気持ちにはならなかった。
だから今回だって平気だと思ったんだ。
いつものように笑って受け入れられると思っていた。
・・・そう、思っていたんだ。

そもそもアルヴィンはいつだって怪しかった。
単独行動が目立ったり誰かわからない相手と手紙のやり取りを頻繁にしていたり。
だから最初から信用なんてしちゃいけないってわかっていた。
わかってたのに彼は…優しかったから。
ジュードって自分を呼ぶ声とか、ふとした時に気安く肩に回してくる腕とか、戦闘中に庇ってくれた時とか。
今思えばそれも僕たちを騙す手段の一つにすぎなかったのかもしれないけれど。
でも、それでも僕はどこかで彼のことを信じたかったんだと思う。
アルヴィンのことを信用しちゃいけないと思う反面で、旅の途中で彼の時折垣間見せた笑顔を信じていたかった。
だからかな、カン・バルクで彼が僕たちを裏切った時に、いつものように納得させようとした心が悲鳴をあげた。
どうして、なんで、そんな言葉が僕の心を支配していくのがわかった。
ティポの
「今のうちだー、逃げろー」
の声にハッとして無意識のうちに扉に向かって走り出したけど、本当は後ろを振り返りたくてしょうがなかった。
アルヴィンは、いったいどんな顔をしているのか気になって仕方がなかったから。
結局そんな気持ちに負けて少しだけ振り返った時に見えたのは手を振るアルヴィンの姿だけで、表情までははっきりと見えなかった。

今までどうやって僕は冷静に物事を受け入れてこれたんだろう。
なんで今回に限ってこんなにも心が痛むのかわからない。
エリーゼの言う
「アルヴィンは嘘つきです」
の言葉が頭の中でぐるぐると回っていて何も考えられない。
嘘つき…僕たちは彼に騙されたのだという現実に胸がいっぱいだった。
あれだけ信じちゃいけないと思っていたはずなのに。
僕はいつのまにかアルヴィンと旅を共にしているうちに、
彼を疑う気持ち以上に好きだという気持ちのほうが大きくなってしまっていたのだろうか。
だから裏切られたとわかった時、あんなにも心が痛くてたまらなくなったのか。
自分が泣いていないのが不思議なほど、今は泣きたくて仕方がなかった。
ただただ、誰かに縋りたくてたまらなかったのに、
今一番隣に居て欲しい相手は、一番手の届かない所に行ってしまった。

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