キミとのセカイ14




〜アルヴィンSIDE〜



『友達と遊びに行ってきます。6時までには帰ります』

いつもより少し早く俺がバイトから帰ってくると丁寧な字でそんな置手紙が机の上に置いてあった。
時計を見ると午後5時半辺りをさしている。
どうりででただいまと言っても返事が返ってこないはずだ。
それにしても、それが当然だった生活を少し前までは送っていたのに、今では違和感を感じるなんて…あまり良くない傾向な気がする。

「参ったな…」

そう思いながらぼーっと机に置かれた手紙を見ていると、ただいまーという声と同時に玄関のドアが開く音がした。
物思いに耽っていたせいか結構時間が立っていたのに気がつかなかったみたいだ。

「あ、アルヴィンいたんだ。
 返事がないからてっきりまだバイト先から帰ってきてないかと思ったよ。
 ごめんね、遅くなっちゃって。」

そう言いながらジュードはベランダに出て干してあった洗濯物を取り入れていく。
それを丁寧に畳みながら

「今日はレイアと…あ、レイアって僕の幼馴染なんだけど、久しぶりにゆっくり話をしてきたんだ。
 土曜日で学校も半日で終わったからね。
 ほら、僕って突然ローエンの家に引越しちゃってちゃんとした挨拶も出来ていないでいたから。」

「へぇー、おたくに幼馴染なんていたとはね、初耳だわ」

ベッドサイドに腰掛けながら話を聞いていると「はい、アルヴィンの分」と言って綺麗に畳まれた洗濯物を渡された。
何度も何度もくどい位言われ続けた『出したものは元にあった位置に戻す』を実行すべく立ち上がるとクローゼットの洋服入れのところにそれを仕舞う。

「レイアとは学校でも同じクラスなんだ。
 家族ぐるみで付き合いがあったから、僕の両親が事故に合った時もすごく心配してくれて。
 今日始めて聞いたんだけど、もしローエンが僕を引き取ってくれなかったらレイアの家でお世話になっていたかもしれないんだよ。」

ジュードも畳んだ服を自分のボストンバックに仕舞うと、じゃあ夕食作っちゃうね、ちょっと待っててと言うと廊下の方に消えていった。
俺はなんとなくTVをつけると丁度バラエティ番組が始まったところだった。
だけど内容は殆ど頭の中に入ってこない。
さっきのただいまの返事がなかった違和感を覚えた自分が気になって仕方がないからだ。
それもジュード君が帰ってきた途端にすっとその違和感は消えていった。
つまりはそういうことだ。
俺はあんなにムリだと思っていた『誰かと生活を共にするということ』に慣れるばかりか、それが普通になってしまっている。
家に帰れば誰かがいて会話をし、綺麗に掃除された部屋で美味い手料理を食べてほかほかに干された布団で寝るなんて生活今までしたことがなかった。
おはようとかいってらっしゃいとかおやすみとか、そんなどうってことない言葉だけでこんなにも心が満たされるということも初めて知った。
実際にそんな生活をおくってみるとその生活サイクルはとても居心地がいいもので、手放したくなくなってきてしまう。

「はっ、何考えてんだよ…相手は男でまだ小学生だぞ」

そうだ、ジュードは友人からの預かりものであって俺のものな訳ではない。
だけどそれを残念に思う程には俺はあいつに執着しているみたいだ。
これじゃあ以前プレザが言ってたのも満更じゃなくなってしまう。

そんなことを悶々と考えているとジュードが出来上がった料理を持って部屋に入ってきた。

「お待たせ。今日は焼きそばだよ」

にこにこと笑ってそう言うジュードに俺も美味そうだな、と返事を返す。
こいつの嬉しそうな笑顔をみてるとなんだかこっちまで笑えてくるから不思議だ。
だからといってさっきまで考えていた悩みが消えるわけじゃないんだけど。
でもまぁとりあえずまだ暫くはこの暮らしが続きそうだし、なるようになるだろと思うことにした。


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