キミとのセカイ8




「んじゃ俺はバイト行ってくるわ」

アルヴィンはご飯を食べ終わったかと思ったら、目の前で突然服を脱ぎだすものだから僕はぎょっとして急いで後ろを向かなくちゃいけなくなった。
別に男同士だし何も全裸になるわけじゃないんだから気にするなといえばそうなんだけど、やっぱりどこか恥ずかしいような気がする。
そんな僕をまったく気にも留めずに忙しなく部屋と洗面所を行き来しつつ準備をすると、アルヴィンはそう切り出した。
パジャマ代わりのスウェットはベッドの上で脱ぎ散らかされているし、食べたものは食べっぱなしで机の上に放置されている。

「昨日行ったショッピングセンターわかるだろ?そこのア・ジュールっていう店でバイトしてんだよ」

廊下へ続くドアの左横辺りの壁に背を預けながらまだどこか眠そうな顔をしている。
そんなアルヴィンの話を僕はカーペットに座りながら聞いていた。
残り一口になっていたパンを口の中に放り込む。

「バイト…」

「そ、喫茶店でね。
 今日は6時までだからそんなに遅くならねーと思うし、ジュード君は一人でお留守番出来る…よな?」

ニヤって表現が似合いそうな顔をして視線を合わせてくるアルヴィンに僕は少しムッとした。
明らかに小さな子供扱いされているのが面白くない。

「あ、あたりまえだよ留守番くらい慣れてるし、できるから!」

「そりゃよかった。
 そう怒るなよ、冗談だって」

壁から背を離し僕の傍まで寄ってくるアルヴィンにふんって首を横にして僕は怒ってるんだって態度をとると、悪い悪いって全然悪そうじゃない言い方で謝ってくる。

「まぁ一応なんかあったらってことで携帯番号教えとくから」

そう言ってジーンズのポケットから黒い携帯を取り出すアルヴィンに習って僕も近くに置いてあった鞄から携帯を取り出した。
確かに連絡先は知っておくに越したことはない、何があるかわからないし。
アルヴィンは傍まで来るとしゃがんで僕から携帯を受け取ると何やら操作し始めた。

「……よし、ほら登録しといたから。
 子ども扱いして悪かったって」

そう言って携帯を返してくる。
謝ってる人にいつまでも怒ってるのは、それこそ子供のすることだ。
僕は「もういいよ」と言って携帯を受け取った。
 
「おっと渡し忘れるところだった」

アルヴィンは今度は携帯の入っていたポケットとは逆のポケットに手を突っ込むと、銀色に光る鍵を取り出して僕に渡してくる。

「これうちの鍵な。
 どっか出かけてもいいけど迷子にはなるなよ」

「あ、ありがとう」

手を差し出すとあぁ、と返事をしながら鍵を僕の手のひらに乗せてくれた。




「いってらっしゃい」と見送って部屋に戻ってくるとまず目に付いたのが昨日買ったばかりの布団だ。
包装されていたのを解くとベランダに干すことにする。
その後机の上のパンの袋をゴミ箱に捨てようと思ったけど、どこを見てもこの家にはゴミ箱というものがない。
廊下も見に行ったけどそれらしき物は発見出来なかったが、その代わり大きなゴミ袋を洗い場の下の棚の中で見つけた。
なのでそこに先程包装を解いた時に出たゴミと一緒に一まとめにして部屋の端に置いておいた。
牛乳を飲んだコップは洗い場で綺麗に洗いしばらく乾燥させておく。
そこまでして次は洗濯物の存在を思い出した。
僕はローエンの家からあまり沢山服を持ってきているわけじゃないから、洗濯はしなくちゃいけない。
洗濯機のある脱衣所を覗きに行くと洗濯籠っぽい籠の中に衣類やらタオルやらが無造作に入れられていることに気がついた。
柔軟剤や洗剤を探してみると、若干埃を被った状態で洗濯機のすぐ上の棚に置いてある。
どうせついでだし別々に洗っていたら非経済的だ、洗濯も一緒にしてしまおう、そう思い立って爪先立ちでギリギリ届く場所にある洗剤に手を伸ばした。

洗濯をしている間に部屋の掃除をしようと思ったんだけど、今度は掃除機がない。
ついでに言えばはたきっぽいものもないしアイロンも見当たらない。
この家には普通あるはずのものがなさすぎるような気がする。
一番怪しいのはクローゼットの中なんだけど、あそこはアルヴィンの私物が詰め込まれてる…と思われるので開けるのを躊躇われた。
とりあえず掃除は我慢しよう、もしかしたら仕舞ってあるだけかもしれないし、家主が帰ってきたらどこにあるのか聞けばいいのだ。

「…夕食の材料を買いに行こうかな」

そう呟くと鞄に携帯を仕舞って、まだ日差しも強く暑い外へと歩き出した。


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