キミとのセカイ7




ちゅんちゅんと鳥の鳴く声とカーテンの隙間から差し込む眩しい光に僕は薄らと目を覚ました。

「ぅーん…いま、なんじ…だろう」

体を起こそうしたが、何かに拘束されているようで起き上がることが出来ない。
唯一動きそうな右手をいつも時計を置いている場所に向かって伸ばしてみると空振りに終わった。
あれ?おかしいな…そう思うとまだ眠たい瞼を無理やり持ち上げる。
すると僕のお腹辺りに太い男性の腕が回っていることに気がついた。
「うわっ」
ビックリして思わず声が出てしまうが、自分の後ろですーすーという寝息が聞こえてきて慌てて自分の口を右手で塞いだ。
ここまできて漸く、ここはローエンの家の自分の部屋ではなくてアルヴィンという男性の部屋だということを思い出した。
でもこれはいったいどうなっているんだろう、と自分の今の抱き枕宜しくな状況を思案する。
昨日のことを一生懸命思い出そうとしても、髪を乾かし終わってからの記憶がどうしても曖昧で正直覚えていない。
そんなことを起きぬけの冴えない頭で悶々と考えていると、テレビ台の左端に時計が乗っているのに気がついた。
時刻はもう9時を差している。
いくら夏休みといっても流石に寝すぎだろう、そう思ったが起きたくても腕が邪魔をして起き上がれない。
仕方ないので暫くじっとしていたが、確か今日は午前中に布団が配送されてくる予定なのを思い出した。
何とか自分の腰に回されているアルヴィンの腕をどけようとする。
「…う、ん…」
起こしちゃったかな、と思ったがアルヴィンは寝返りをうって逆側を向くとまた気持ちよさそうな寝息をたてはじめた。
それと同時に腕も離れていく。
「た、助かった…」
こうして僕はベッドから降りることに成功した。


昨日教えてもらったばかりの脱衣所に設置されている洗面台で顔を洗って髪を梳かすと、パジャマを脱いで服を着替える。
そこまでして部屋に戻ると未だ夢の中な同居人の姿があった。
「朝食はどうしよう…」
そう呟くと廊下に小ぶりの冷蔵庫があったのを思い出す。
「ごめんなさい」
勝手に開けることを謝りつつ扉を開けると、そこにはビールとお茶とちょっとしたおつまみしか入っていなかった。
やっぱり最初に思った通りこの人は料理をしないタイプの人みたいだ。
かといって他に朝食になりそうなパンとかご飯とかが置いてあるわけではない。
いったい今日の朝食はどうするつもりだったんだろう…と疑問に思ったが無いものは仕方ない。
僕ははぁ、とため息をつくと部屋に戻って『コンビニに行ってきます』と書いた置手紙を残し買い物に出かけることにした。
確か昨日ショッピングセンターに行く途中にあったはずだ。


コンビニまでは歩いて5分も経たずに着いたので何か朝食になりそうなパン数点と牛乳を1本購入する。
鍵を持っていないためドアを開けっ放しにしてきてしまったので急いで帰らなければならない。
小走りで戻るとガチャと音をたてて鍵を閉めた。
ふぅ、と一息ついてゆっくりと靴を脱ぐ。
部屋に入るとまだアルヴィンは先程と少しも変わらない姿で眠っていた。
もう時間は10時を過ぎている。
流石にそろそろ起こしたほうがいいんじゃないかな、と思って買ってきたものを机の上に置いてからベッドサイドまで歩いていく。

「アルヴィン、起きて、もう10時だよ」

ゆさゆさとその体を揺するがなかなか目を覚まさない。

「もう、アルヴィン、アルヴィンったらっ、起きて、よ」

更に大きく揺すると「…んっ、だ、れだ…?」とう声と共に重たそうに瞼がゆっくりと持ち上げられた。
暫く天井を見つめていたかと思ったら首が少し横を向いて僕をその瞳に写してくる。

「あー、あぁそうかおまえがいるんだっけ」

そう言うとふわぁと大きな欠伸をしながらアルヴィンが起き上がった。
左手で頭をぽりぽりと掻きながらその視線は机の上に置いてある買い物袋の辺りをさしている。

「さっき買い物してきたんだよ。冷蔵庫、何もなかったから」

僕がそう答えると納得いったのか「そうか」と一言返事が返ってきた。

「…俺は料理が苦手でね、毎食コンビニかスーパーで買ってくるんだが…そうか、そういえば昨日は買うのをすっかり忘れていたな」

首を左右に傾けてポキポキ鳴らしながらアルヴィンが話し出す。

「だから悪いけどおたくもこれから4ヶ月の間は俺と一緒にコンビニ弁当か――――」

アルヴィンが全部言う前に僕は彼の言葉を遮った。

「じゃあこれからは出来るだけ僕が作ります、料理は得意だから」

「……いや、そうは言ってもおまえまだ10歳だろ?」

「歳は関係ないじゃない。
 それに大丈夫だよ。
 両親がいたころも僕はよく自分で料理を作っていたし、ローエンと一緒に暮らし始めてからも帰りの遅いローエンの代わりに料理当番は殆ど僕だったから。
 もし心配だったらアルヴィンが一緒にいる時しか火は使わないし…ね?」

そう言うと少し悩んだ顔をした後アルヴィンはしょーがねーなーって顔をした後頷いてくれた。


そんな話をしているとピンポーンとチャイムの音が鳴る。
アルヴィンははいはい、と言いながら上下スウェットのまま玄関まで歩いて行った。
その後直ぐに誰かと一言二言会話をしている声が僕のいる部屋にまで届いてくる。
暫くして大きな荷物を持って部屋に戻ってきた。
どうやら布団が無事配達されてきたらしい。
その荷物を部屋の端にドサッと下ろすと、ふぅと一息ついて机の傍の床に腰を下ろす。
僕も迎え側に座ってビニールの袋からパンと牛乳を取り出した。

「あ、コップってあったっけ?」

「あぁ、確か洗い場の横の棚に数個入れっぱなしにしてた気が…」

そんな返事に従って見に行くといくつかの食器と共にちょうど2つコップが置いてあった。
それを軽く濯いで持っていくと牛乳を注ぐ。
こうして少し遅い朝食…いや違うかな、もう時間的にはブランチを二人でとりはじめた。

「そういえばアルヴィン、なんで昨日僕ベッドで寝ていたの?」

牛乳を飲みながら僕はふと思い出したことを尋ねてみた。
あれからどれだけ考えてみても自分からベッドに上がった覚えがないのだ。

「そりゃジュード君、ここにベッドが1個しかなかったからだろ?
 それ以外のどこで寝るつもりだったんだよ」

アルヴィンが一旦食べるのを止めると少し怪訝な顔をしてこちらを見てくる。

「え、床のカーペットの上、とか?」

そんなことを言う僕に軽く目を見開いて

「…はぁ、俺はそこまで酷い男じゃねーよ」

と溜息をつきながら返事を返してきた。

「じゃ、じゃあなんで朝僕を抱きしめて寝てたの?」

今度は少し身を乗り出しながら聞くと、アルヴィンは先程より更に驚いたとでも言うような表情をした。
飲もうと伸ばしたのであろう手がコップに行き着く途中でピタリと止まっている。

「…は?俺そんなことおたくにしてた?
 そりゃ悪かったなー、ちょうどいい抱き枕があったもんでつい手が伸びちまったんだろ」

やっぱり思ったとおり、アルヴィンは僕のことを抱き枕と勘違いしていたらしい。
からかうような言い方をするアルヴィンに文句を言おうかとも思ったけれど、ベッドにあげてくれたおかげでぐっすりと寝る事が出来たんだしまぁいいか、と思い直した。




[ 20/37 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -