キミとのセカイ3



ローエンの運転する車に乗りどこかの駐車場まで来て、その後手を引かれて少し歩くと小さなアパートに辿り着いた。
そこは普通の、いかにも一人暮らしの大学生が借りるだろうなという感じの古いアパートだった。
もうすぐ新しい…といっても期間限定付きだけど、それでも4ヶ月もの間同居人となる人との初顔合わせにちょっと緊張して僕がぎゅっと手を握ると、ローエンが立ち止まって優しく微笑んでくれる。

「大丈夫ですか?もう着きますよ、ジュードさん。」

そうゆっくりとした口調で尋ねてくるローエンに、僕は左手で持っていた荷物の取っ手を握り締めながら大丈夫だと答えた。

「そうですか、では行きましょうか。」

そう言うと再び歩き始める。
同居人の部屋は2階にあるらしく、アパートの端に設置されている階段をとんとんと音をたてながら上がっていく。
そうして2つのドアの前を通り過ぎた後、3つ目のドアの前でローエンが歩くのを止めた。
その何の変哲もないドアの横にあるチャイムを押すと、ピンポーンという音が響く。
暫くすると、ガチャリという音と共にドアが開かれローエンよりも少し背の高い男性が姿を現した。
思わず自分よりも数十センチもの高さにある顔を見上げると、その視線に気づいたのかその男性がこちらをじろっと見下ろしてきた。

「こんばんは、アルヴィンさん。
 少し遅くなりましたかな?すみません、道が混んでいまして。」

男性はそんなことを言うローエンに視線を戻すと、別になんとも思っていないとでもいうように手を軽く振り「…入れよ」と一言言って僕たちを部屋に招きいれた。
「おじゃまします…」と小さな声で言うとローエンと同じように丁寧に靴を揃えて脱ぐ。
振り返るとすこし先にもう一つのドアがあって、そのドアを潜るとおそらく10畳ほどのワンルームがあった。
男性の一人暮らしにしては部屋は綺麗に片付いているように思う。
大きなベッドと壁に取り付けられた冷房、床に敷いてある毛足の少し長めのカーペットに丸い机とその上に置いてあるノートパソコン、テレビが一台、それに数冊の雑誌がベッドサイドに積んである以外には何もない。
その他の服とかはきっと全部クローゼットにでも入れてあるんだろうな、と何気はなく思った。
そこまで考えて、ふと廊下にあった備え付けのキッチンスペースなんて新品同様に見えたのを思い出す。
もしかしてこの男性は料理をしないのだろうか?
そんなことを思いながらぼーっと突っ立ってると

「さぁ、ジュードさん座りましょう」

と言ってローエンに背中を軽く押された。
こくん、と頷くと机の前辺りにローエンと並んで座る。
男性はベッドサイドに腰を掛けた。

「で?こいつがおたくの言ってた『ジュード君』ってわけ?」

まずは同居人となる男性が話し始める。

「はい。ジュードさん、こちらはアルヴィンさんといいます。
 私とはもう数年来の付き合いでして、今では良き飲み友達…とでもいいましょうか。」

「アルヴィン、さん…」

僕は教えてもらった名前を小さく反芻してみた。

「それにしても綺麗になりましたね、見違えましたよ」

そう少し笑って言うローエンに

「あぁ、昨日その辺のもん全部捨てたからな。
 じゃねーとおたく笑顔で延々と説教してくるから怖い怖い」

男性も肩を竦めながら軽口で答えている。
仲がいいんだろうな、と思う。

「さて、何か質問はございますかな?
 あぁ、ジュードさんに必要なお金は全てこちらでお支払いします。
 ジュードさんには通帳を渡してありますので必要な時に引き出してください」

「そんなことして、俺がその金使い込んじゃうとか思わないわけ?」

意地の悪い返答にもローエンは笑って答える。

「まさか、アルヴィンさんがそんなことするとは思ってもいませんよ。
 信じておりますから。」

「信じる、ねぇ…まぁいいや、それよりさっきから一言も話さないけど大丈夫なの、ジュード君?」

突然自分に話題が振られて思わずびくっと肩を揺らしてしまう。
自分の手元を何とはなしに見ていた頭をゆっくりあげると男性と目が合った。
横からはこちらをどこか心配そうに見ているのであろうローエンからの視線も感じる。

「あ…ごめんなさい、ちょっと緊張してしまって…僕は大丈夫です。
 これから暫くの間宜しくお願いします、アルヴィンさん。」

それだけ言うと宜しくという意味を込めて頭を下げる。
  
「あぁ、狭い部屋で悪いけどこちらこそ宜しくな」

頭上でそんな声が聞こえた。
 
「あぁ、あともう一つ言っておかねばならないことがありました。
 今日はまだ8月10日なのでジュードさんは夏休みですが、9月に入ったら学校が始まります。
 ここから徒歩20分くらいの距離ですし何も問題はないかと思いますが、ジュードさんも貴方と同じエクシリア学園に通っていますので宜しくお願いしますね」

「ほー、ってことは俺の後輩になるわけだ」

「はい、そうなりますね。
 アルヴィンさんは今エクシリア学園の大学部の3年生なのですよ」

ローエンはそう僕に教えてくれた。
エクシリア学園は初等部〜大学部まである、エスカレーター式の学校の中でも特に大変規模のでかい学園で学内はとても広く、中でも大学部と初等部は一番離れた位置にあるためめったに会うことはない。

「さて、では質問もなさそうなので私はそろそろお暇しましょうか。」

明日の準備もありますし、と言うとローエンはすっと立ち上がった。
玄関に向かって歩いていくローエンを追いかけて僕も立ち上がる。
後ろからアルヴィンさんも着いてくるのがわかった。

玄関で靴を履いたローエンはくるりと身体を僕たちに向けると僕の頭に片手を乗せた。

「私としたことがすっかり忘れていました。歳はとりたくないものですねぇ。
 ジュードさん、もし何かあったらこの携帯電話でかけてきてくださいね。
 もう私の電話番号は登録してありますので。」

僕の髪を撫でながらポケットから出された白い二つ折りの携帯電話を渡されたのを受け取った。
同時にどこに隠し持っていたのか充電器などが入っているのであろう小さな紙袋も渡される。

「それじゃあアルヴィンさん、ジュードさんのこと、宜しくお願いします。」

「あぁ、わかってるよ」

そんな短いやり取りをした後、ローエンは玄関のドアを開けて外に出て行った。



[ 16/37 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -