独り占め



「アルヴィンはきらいです。
 いつだって…ジュードのことを一人占めしようと、します」

それは丁度今宵の部屋割りはいつも通りでいいかと話していた時、小さな声で発せられた。
その声が届いたのはエリーゼの近くにいたジュードとアルヴィンとローゼンの三人で、
ちょっと離れた所で部屋の交渉をしていたミラとレイアにはまったく聞こえなかったのかそのまま宿屋の主人と話をしている。

「エ、エリーゼ、何を言ってるの!?」

「そうだぜエリーゼ姫、俺がいつこいつを一人占めしたってんだよ?」

アルヴィンと話をしていたジュードは、そんなエリーゼの発言にビックリしたのか軽く目を見開きながらエリーゼのほうを振り向く。
続いてアルヴィンも心外だとでも言いたそうな顔でエリーゼのほうを少しダルそうに見た。

「だ、だっていつもいつも…いっつも二人は同じ部屋じゃないですか…!
 私だって、ジュードと同じ部屋がいいんです!」

「そーだそーだー、たまには部屋を変われー!」

そんなティポの声に
「おやおや、これは…」
と一人楽しそうに呟くローエンの声が重なった。


「ちょ、ちょっと待ってエリーゼ」

目線をエリーゼの高さと同じになるように軽く屈みながら、ジュードはエリーゼを落ち着かせるように話しかけた。

「えーっと、エリーゼは今日は僕と同じ部屋がいいの?」

「…はい、駄目ですか?」

「僕も一緒だよー」

そう主張するティポをぎゅっと抱きしめながらおずおずといった様子で尋ねる。

「うーん…そうだなぁ。僕は―――」

すると何か言いかけたジュードを遮るようにアルヴィンが口を挟んできた。

「若い年頃の男女を一つの部屋にするなんて大人な俺としてはあまり賛成出来ねーなぁ。
 それになんたってジュードは俺専属なんで貸し出しはNGだし…っていてっ、痛い、マジで痛いからジュード君!」

「ちょ、ちょっとアルヴィンなに言ってるの…!」

ジュードは屈んでた身体を起こして今度はアルヴィンに向けると、拳を握ってその鍛えられた身体に向かって突き出した。
その細い腕からは想像出来ないが、日ごろその拳で敵を相手にしているだけあってヒットするとかなり痛い。

「自業自得だよ、エリーゼに変なこと教えないで」

「変なことってなんだよ、俺は事実を言っただけだぜ…それともまだ伝えたりなかった?
 だったら今からでもその身体によーく教え込んでやってもいいんだぜ。
 おまえがいったい誰のものなの―――」

「わーわー、な、なんでもないよエリーゼ」

焦って手のひらでアルヴィンの口を塞いだ。
少し背伸びをしなければ届かないこの身長差が悔しいと思ったが、今はそれどころではない。

そんな二人のやりとりを何も言わずじーっと見ていたエリーゼだったが、

「ほら、やっぱり…。
 アルヴィンは、ジュードといつも一緒がいいんです。
 ジュードもアルヴィンといつも同じ部屋がいいんですか?
 …わ、わたしと一緒じゃだめ…ですか?」

そう言うとエリーゼは泣きそうな表情を一瞬浮かべて俯いてしまった。 
その右手はジュードの服の裾をぎゅっと握っている。
ジュードはアルヴィンの口から手を離すと再びエリーゼの方を向き直し、

「エリーゼ…僕は―――」


「おーい、そこの4人、部屋が取れたよー!」

またしても話の途中で遮られたジュードは仕方なしに声のしたほうを振り返る。
すると小走りでこちらまで来たレイアが、持ってる鍵のうちの一つをジュードに押し付けてきた。

「はい、これジュード達の部屋の鍵ね。
 なんか今日は混んでるみたいで2部屋しか取れなくてさ、男女でわかれることになったから!」

「少し狭くなるが仕方がないだろう」

レイアの後ろを歩いてきたミラがレイアの隣に並んだ。

「ん?何かあったのか?」

様子のおかしいエリーゼに気がついたミラが尋ねてくる。

「…えっ、いやなんでもないよ。
 部屋割りについてちょっと話をしていただけなんだ。
 ほら、エリーゼ、今日のところはミラやレイア達と一緒の部屋だよ。」

ジュードは頭にポンっと手を置くと

「…わかりました。
 ジュード、我侭言って…困らせてしまってごめんなさい」

そう言ってエリーゼは掴んでいた裾から手を離した。
そしてティポをぎゅっと抱きしめる。

「そんなの全然いいんだよエリーゼ、気にしないで。
 いつでも部屋に遊びに来てもいいんだからね。」

優しく笑って頭の上に置いていた手でくしゃくしゃと撫ぜてあげた。



そんな二人を他所に

「おやおや、アルヴィンさん面白くなさそうな顔をしてどうしたんですか?」

どこか面白そうに尋ねるローエンに

「なんでもねーよ」

と言いながらも大人気ない表情をしたアルヴィンはエリーゼと話をするジュードをじっと見ていた。

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