002 「…見つけた!アキ!」 「げ、ノアル!」 ビンゴ! 黒髪の少年でイタズラ好きな子でひらめいた。 「んだよ、俺になんの用なわけ」 「八百屋から林檎盗んだって聞いたから。返しなさい」 「はあ!?なんでだよ、いっぱいあるんだから少しくらい盗んだって構わないだろ?」 「少しって…少しでも盗みは盗み!駄目に決まってるじゃない!」 「じゃあお前は死ねていうのか?」 「なんでそんな話に」 「そうじゃんか!お金がない、家がないから働けない、食い物もない、それでどうやって生きろっていうんだよ!」 「それは…」 「諦めるなって?馬鹿言うなよ、お前と違って俺は…俺たちは魔物と戦う術もないからゴミ食うか盗むかしかねぇんだよ!」 なんて言っていいかわからない。 多分、私が来る前からずっと彼らはここで暮らしてるんだ。 今更何を言うんだって? でも、やっぱり盗みはいけない、絶対そう思うから。 「こらあ!このクソガキ!」 「わあああっ」 突然怒鳴り声が聞こえ、後ろを向くとさっきの八百屋のおじさんが鬼のような顔でこちらに走ってきた。 …おかしいな、普段市場街に住む人は貧困街には近付きたくもないから入ってくることもまずないんだけど。 アキはらしからぬ声をあげると林檎を私に押し付けた。 …え? 「おじさんごめんなさい…でも俺、こいつに頼まれて…盗まないと殺すって言われて…それで仕方なく盗んで…」 「え…」 ちょっと待って、なにそれ聞いてない。 どういうこと? もしかして私、身代わりにされてる…? 「なんてごめんなさい…言い訳なんかしても仕方ないですよね…でも俺、ほんとに怖くて…」 「な、なにそれ、私そんな事言ってな…」 「ほおう…嬢ちゃんが…ねえ…」 八百屋のおじさんはいやらしく笑うと私の身体をなめるようにしながら見た。 …違う、身代わりとかじゃない、はじめからそのつもりだったのか。 「いたっ」 「嬢ちゃんここに住んでる割には良い体格してるじゃねーか、髪も綺麗だしよ」 おじさんは黄緑色をした私の髪を思い切り引っ張ると顔を近付けた。 髪は…皆とお揃いで…私の宝物だけどこんな人に誉められたって嬉しくない。 逃げようとバタバタしてみたがお腹が空いてるからか気持ち悪いからか全然力が入らない。 「嫌だ、離して!」 アキ以外の貧困街の住人は絡まれたら嫌らしく、皆気付かないふりか目を反らしてる。 絡まれるのが嫌…?それだけじゃない、もしかして私… 「どうだろうなあ…今まで散々俺の野菜盗ませておきながら何もなしってのも…なあ?」 「違うってば!知らないって言ってるでしょ!」 「うるせえ!黙れ!」 耳元でおじさんが怒鳴るから耳がキーンとなった。 チラリとアキを見ると…アキは笑っていた。 やっぱり私最初から嵌められて… 「ねえ、ノアル。キミがおじさんに連れていかれれば俺だけじゃない、こいつら皆助 かるんだ。なあ、俺たちを助けると思ってさ」 「な…皆…って…」 アキだけじゃなかった。 貧困街のみんながそれを望んでたんだ。 他のみんなは気付かないふりしていつも通りの生活。 私、何かしたのかな? 金が入るためならなんだって良いのかな。 私がはじめてここに来た時、優しくしてくれたのは、嘘だったのかな… 「もう…勝手にすればいいじゃない」 「おお、はじめからそういう態度をすればいいんだよ、なあ」 どうして私こうなったんだろう。 母さんが死んだのも街が砂漠に埋もれたのも…みんな殺されちゃったのも。 …母さんも、家族も結局守れなくて、今も、こんな風に守りたかったわけじゃないのに。 「私…どうして…」 「やっぱりか」 「「!?」」 突然、背後から知らない男性の声が聞こえた。 [*前] | [次#] モドル |