Jeanne d`Arc | ナノ



003


「やっぱりか」

「「!?」」


知らない男の人の声が聞こえ、後ろに視線をやると、


「え…」


金髪で髭が生えてて、後ろには投剣?を担いだ男の人がこちらを睨んでいた。
結構な身なりだ。しかも見たことない。
ここの住人じゃない…。
そういえば、騎士学校の生徒等が課外授業のため駐在してるって今朝聞いたような。
となると、この人は先生?


「何か不審な動きをしてると思ったらこういうことか」

「な、なんだ!部外者には関係ないだろ!」

「っ、だから痛いってば!」


男の人が担いでいる剣に怯んだのか、苛ついたのか私の髪を掴んだ手の力を更に強めた。
ちょ、もしまるごと抜けたらどーすんのよ!
…うあああっ考えただけで泣きたくなる!


「貴様が彼女を追う目に違和感を感じたんでな」

「ああ?だったらなんだっていうんだ」

「そいつを離せ」


あれ…もしかしてこの人、私を助けようとしてるの?
…でも、私が捕まらなきゃ、みんな救われないんでしょ?だったら私は…。


「へへっ、そういうわけにはいかないよなあ、悪いことをした子供にはお仕置きしねえとなあ、お嬢ちゃん」

「っ、私は…」

「…金があれば満足か?」

「ちょ、ちょっと!」

「な、なんだこの大金はっ」


男の人は小さくため息をつくと、床に小銭をバラまいた。
え…これそれなりの金額よね…
おじさんはいやらしく目を輝かせると落ちた小銭を両手で拾おうと…


「え」

「っ、お嬢さん!」

「いっ…あれ」


落ちた小銭を拾おうと私を掴んでた手をおじさんが離して…咄嗟に離されたから地面に激突だったところを、男の人が寸前で抱き止めた。


「俺の金が!」


どうやら走ってきてくれたからそれで落ちてた小銭が辺りに散ってしまったらしく、おじさんが情けない声を上げた。

散らばった小銭がアキの前にも転がってきて、拾おうとしたらおじさんは怒鳴ってきた。


「お、おい坊主!これはお前みたいなクソガキの金じゃなく俺の」

「なんだ?」

「ひっ」


私は後ろ向いてるからよくわかんないが、なんとなく男の人から怖いオーラは感じる。
思わず私はこの人にしがみついた。
…って怖いオーラ出してるのはこの人なのに!


「!…こんなにたくさんあって、まだ物足りないのか?…ったく、素直に引き下がればいいものを」

「わっ」

「下がっていろ」

「は、はいっ」


突然、降ろされると、小さな声で下がれと言われたので私は一歩引いた。
男の人は後ろに担いでいる剣に手をかけた。
おじさんの顔が歪む。


「こういうやつが二度としないためには痛い目みないとわからないか?…壱心!」

「ひぃ!もうしませえええんん」

「あ、お金」


飛んできた剣にビビったのか八百屋のおじさんは情けない声を上げて市場街側へ
走って逃げていった。
ビビった拍子にまたバラまいた小銭を拾いもせずに。


「全く…あ、お嬢さん、良ければ散らばった小銭拾ってくれないか?」

「え、あ、はい」


私の返事に男の人は小さく笑うと小銭を拾いはじめた。…から私も拾うことに。
それにしても今の技…かっこよかったな…
あ、お礼言い忘れた。






「待て、少年」

「!…んだよ」


拾った小銭を男の人に渡すと、彼はこっそり逃げようとしたアキを呼び止めた。
アキはビクッと一度肩を震わせてから小さく聞いた。
…もしかしてアキも…


「ま、ってアキは…」

「大切にしろ」

「は?」

「え…」


さっき拾った小銭が入った小袋を彼はアキの頭の上に乗せた。
殴られると目を瞑ったアキからすっとんきょうな声が漏れた。


「勘違いするな、お前一人のものじゃない、ここの住人、皆の物だ」

「え…あ、ああ…ありが…と…」

「ああ。…それと二度とこういう真似はするなよ。生きるためだからって、他人を、しかも同じ仲間を傷つけてはいけない」

「あ…」

「…まあもっとも、はじめからそのつもりもなかったみたいだがな」

「なっ…」


え?それってどういう…

私が聞こうとしたら男の人はポンと私の頭に手を置くと、くしゃくしゃと撫でた。


「わっ、くすぐっ、たい」

「お前、なんか見覚えあるんだよな…。まあいいか、お前も気を付けろよ」


見覚え…?私はないけどなあ。
あ、お礼いわなきゃ。
行ってしまいそうだったから咄嗟に叫んだ。


「…お、おじさん!」

「おじ……コホン、なんだ」

「ありがと、助けてくれて。私、ノアルっていうの」

「ノアル…いや、オレはマリク・シザースだ、もしまた困ったら頼りにきて構わん。…まあバロニアまできてもらわんと気付かないがな」

「うん、わかった。ありがと、マリクさん」


私がもう一度お礼をいうと、彼…マリクさんはさよなら、と右腕を上げると市場街へと消えていった。






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