009 「わああ…でっかい…」 「それはそうだろ、大輝石だからな。ウィンドル国民の生活を支えている大事な輝だ」 「そうだねぇ…凄い…」 大翠緑石の予想外の大きさに私は呆然としてしまった。 あまりに大きくて首が痛くなるくらい。 でも凄く綺麗で…なんていったらいいのかわからないけど。 エメラルドグリーンが眩しくて私は目を細めた。 「…やっぱり、お前の髪は大翠緑石に似て綺麗だな」 「……へ!?わ…私?」 予想外の事を言われて私はキョドってしまった。 マリクはそっと私の髪に触れると続ける。 「ああ。大翠緑石に反射した光が、ちょうどお前の髪を煌めかせていて尚更…綺麗だ」 「え、あ…うん、あ、ありがとマリク…私、髪が一番の宝物なんだ」 「…そうか」 少し照れくさそうに笑ったノアルにオレも笑い返した。 笑い方や仕草、それにこの髪。 彼女は…信じたくはなかったけど紛れもなくあの時の…いや、あいつの娘だ。 どんな運命だ、これは? でもオレを見ても何も言わないということは、きっと彼女は本当に忘れてしまっ たんだろう。なにもかも。 脳裏に数年前、最後に見た彼女の表情が掠った。泣きもせず、怒鳴るわけでもなく。 正直に強い子だと思ったが、それは今も変わっていないようだった。 「根本は変わらない…か」 「え?何か言った?」 「いや、なんでもないさ。そうだな、バロニアはこんなもんじゃないか?」 「バロニアってほんと凄いんだね…マリク、ありがとう。貴方がいなかったら私、今も倒れてたかも。それにバロニア見学なんて絶対出来なかったわ」 「礼ならあの時の少年に言ってやれ」 「それもそうだけどマリクにも!本当に、ありがとう」 「…どういたしまして」 ノアルはそれを聞いてもう一度笑った。 *** ―明日には マリク:今日は疲れただろう。今日も泊まっていくといい。 ノアル:ほんと?ありがとう! マリク:そうだな…明日の朝にでも出発したらナブルスには夕日が落ちる前には辿り着くだろう。 ノアル:あ…うん、そうだね…。 マリク:ん?どうした? ノアル:え、な…なんでもないよ!さあてもう行くところないしお部屋に戻りますか! マリク:…ああ。 *** 「騎士学校って、誰でも入れるの?」 「…ああ。ただやる気がある奴じゃなきゃやっていけないけどな」 「ふーん」 騎士学校の名前くらいは聞いた事がある。 グレルサイドにいてもナブルスにいても騎士になりたい人は必ずいる。 騎士になるってことは騎士学校は当然ハードなんだと思う。 でも、騎士になったら… 「ノアルは騎士に興味があるのか?」 「あ、うん…その、騎士になれるくらい、強くなれたら。守りたいものが守れるのかなって」 「守りたいもの?」 「…マリク、良かったら少し聞いてくれる?私の…私の大切な家族のこと」 「…ああ」 マリクは手入れをしていた武器を置くと、私に向き合ってくれた。 真面目に聞かれるなんてちょっと恥ずかしいけど、なんだかマリクになら話していいような気がする。 …ううん、マリクに聞いてほしいんだ、私のこと。 私は一呼吸おくと話し始めた。 *** 私には7歳より前の記憶がない。 いや…記憶の場所は分かっている。鍵がかかってるとしてもその鍵を多分持ってる。 でも怖いんだ。なんだか、開けちゃいけない気がして。 それはまあ置いといて。 私は母様と父様、それにお婆様の四人暮らしだったの。 多分私はこの二人の娘ではない、なんとなく感じてたけど血の繋がりなんてあまり関係なかった。 私の名前はノアル…ノアル・オルレアン。 かつては大貴族様だったみたいだけど今はそんなことなくてグレルサイドに小さ な家があるだけの一般家庭。…うーん、下流貴族くらいにはなるのかな。 …いや、それも昔なんだけど。 母様も父様も…お婆様もみんな優しくしてくれた。凄く楽しかった。 勿論、叱られた事だってあったよ。 デール公の屋敷に来たリチャードを一目見ようと忍びこんだり勝手に街の外に出たり。 でも、やっぱり楽しかった。 いつまでも続くって信じてたのに。 そうだな…もう一年半も前になるけど。 何年目かの母様と父様の結婚記念日。 記念日は夫婦水入らずで旅行する、って決まってたから母様と父様はバロニアに行って… それっきり、帰ってこなかったの。 「事故に遇った」んだって。 母様と父様が死んでしまってからお婆様も体調を悪くして… そしたらある時、突然乱暴そうな男の人達がやってきたの。 話を聞くとどうやら父様、借金の連帯保証人になってたみたいで。 馬鹿だよね、ほんと…お人好しで…。 借金した人は自殺、連帯保証人になった父様と母様はお金が返せないからって殺されたって聞いて… カッとなった私は男の人達に飛び掛かったんだけど弱い私には何もできなくて。 もう殺されるって思ったらお婆様が私を庇ってくれて、それで私は無我夢中で逃げたんだけど、後日覗いたらお婆様も家も何もかも、もう無くなってて…。 行き場をなくしてただひたすら進んでいったらナブルスに着いたの。 あの人達は何も聞かないで、私をそこに住ませてくれたよ。 若干戦闘はできるから街の外の魔物や自生してる物を食べたりして今は暮らしてるんだ。 [*前] | [次#] モドル |