(1/6) かつてこの地に繁栄を極めた文化があったなど、誰がその残像を垣間見ることができようか。乾いた大地を撫でる風、その風で削られた奇形な岩々。聞こえるのは風の音、動くのは風に煽られた土埃のみ。 人影はおろか草木さえも見当たらないこの不毛な地を見下ろしている蒼穹に、三つの黒い点があった。それは凝視しなければ気付かないほどのごく小さな点であったが、その点は次第に大きくなり地面へ近付いているのが分かる。やがてそれらは猛スピードで大地へと落下した。もうもうと舞い上がる砂塵から姿を現したのは、小山ほどあろう巨大な三つの『顔』だった。 「敵は三体か……」 「一体ずつヤるほうがいいかもしれないわねぇ」 「出来るだけ村から離そう」 その巨大な顔は、顔から突き出た腕や足を使い地響きを立てながら立ち上がる。無機質な素材で出来ている彼らは、人間のように関節が発達していないのか動きが固い。 「ダヤッカ! 残りの二体は頼むわね!」 「あっ、おいヨーコ!」 「大丈夫! 私の射撃の腕、知ってるでしょ!」 彼らの目が、彼らと比較するにはあまりにも小さすぎるものを捉えた。そうしてにたりと笑うのだった。 「……発見」 「『顔』だよ!」 シモンは自分の後ろを歩くカミナを振り返った。そしていましがた自分が見てきた物を興奮とともに伝えようと両手を大きく広げる。 「すっごいでっかい『顔』!!」 その瞬間、二人の背後でライトから照らされた村長・シャクが怒鳴った。 「貴様らァ!!」 「そっ村長……!」 暗がりを歩いていた二人は、突然のライトアップに眩しそうに目を細める。 シモンが小さく悲鳴を上げた。 その先にいるシャクの形相は凄まじいものだった。明るさに目が慣れてくると、シャクが背後に数人の部下を引き連れているのが分かる。 「脱走とはいい度胸だなァ、カミナ」 「シモン……でけー顔ってこれか?」 カミナがシャクの顔を指差して揶揄する。 声も出ないシモンは頭を横に振って全力で否定した。 「甘く見るなよ青二才! ワシは村長だから見回りもするんだよ!」 全く怖がる様子もないカミナに、シャクは怒りの矛先を隣へと向ける。 「シモン! お前もお前だ! 隠れて余計な穴を掘っているのは知ってるんだぞ!」 「やめろ! コイツに罪はねえ! 悪いのは俺だ」 「お前が悪いのはよく分かってるよ!!」 シモンを庇ったカミナに、シャクは目玉が飛び出さんばかりの形相で近付いた。そしてその長刀を鞘に納めたまま振りかざす。 「ふん!」 まず右肩へ一打。 「ふん! ふんん……!!」 次いで左肩、そして極めつけに頭に長刀を叩き付ける。 大の男が力一杯叩きつけているのだ。痛くないはずはない。しかしカミナはシャクを睨み付けたまま、弱音を吐くでもなく痛がるわけでもなく微動だにしない。 「ぐぬぅ……ぅおのれぇ!」 頭に血が登ったシャクは思いっきり長刀を振り上げた。 「カミナ!」 あれで叩かれたら頭が割れてしまうかもしれない。シモンは悲鳴を上げるが、カミナの頭に当たる前に大きな地響きがして皆体勢を崩してしまった。 やがて地響きは大きくなり、カミナの目指していた天井を突き破り何かが村の中心へ落ちてくる。それと同時に薄暗かったこの村に光が差し始めた。 「あ……あああ……」 何事かと部屋から出てきた村民たちも息を飲んだ。 「シモン! お前の見せたいものって……コイツか?」 誰もが驚きと恐怖で言葉を失うなか、カミナ一人は紅いサングラスをかけてにたりと笑う。 ――落ちてきたのはとてつもなく大きな『顔』だった。 |