01 ◆ 「うーにゅー……いい天気ー……」 ほとんど獣道といっても過言ではないような、木々の合間を縫うようにして僅かに拓かれた小道を、パシフィカは一人で歩いていた。 森と呼ぶほど大規模な群落ではなく、林と評するのが適当であろう。それ程密集していない木々から伸びた枝や葉の合間から降り注ぐ木漏れ日が、パシフィカの体でキラキラ踊っている。それに応えるようにパシフィカは両腕を空に突き上げ、気持ちが良さそうに背伸びをした。 ラインヴァン王国の西部に位置する田舎街マヌーリン。その隣街であるアスタールとを繋ぐ街道口に程近い雑木林。その雑木林に包まれるようにして湖がある。 その湖のほとりで彼女は、彼女の姉と兄と一緒に母・キャロルの誕生日に贈る合唱の練習をしていたことがある。もう八年以上前になるが、パシフィカにとってそのことは、誕生日後に亡くなったキャロルとの日々と共にとても掛け替えのない大切な思い出だ。今でもこうしてたまに湖へと足を運び、あの日から姿を変えずに在る風景を確かめるのが好きだった。 ーーそれはまるで野良猫が自分の縄張りを巡回しているようで微笑ましくもある。 「ーーにゃ?」 鼻歌まじりに、その辺で拾った木の棒を振り回していたパシフィカの視界が幾らか開ける。 自宅を出発し、ゆっくり歩いて半時間程。 湖が見えてきた。 空は快晴。彼女の瞳と同じように蒼い空から降り注ぐ陽光が水面に反射して宝石の様に輝いている。その様子にパシフィカの足取りは自然と軽くなった。 パシフィカはスキップするように小走りで残りの小道を駆け抜けーー 「んにょわっ!?」 ーー転んだ。 それはもう盛大に転んだ。 パシフィカが地面に倒れた音で近くの小鳥が一斉に逃げていく。 「なっなに?」 幸いどこも強打してはいないようだ。すぐにパシフィカは起き上がりながら、今しがた自分の足を引っ掛けた犯人を捜す。パシフィカも今年で十二になる。突き出た木の根や大きい石などに足を取られるほど幼くはないし、この小道だって今日が初めてではない。 それに、気のせいだろうか。なんだか柔らかいものを踏んづけたような感触だった気がする。 「……え?」 違和感を感じるパシフィカの目に、あり得ないものが飛び込んできた。 「……うそ」 パシフィカは息を飲む。 ーーそれは草むらから突き出た人の脚だった。 |