少しずつ暖かくなってきて、春休みに入った。 それと同時にこの街を離れる日が近づいている。 雛は歩きながら、歩道に並ぶ桜の枝先に桜の蕾を見つけて切なくなった。 もともと大人しい性格のせいか、転校するのは怖くて仕方がない。 (小学校に入る時は…快斗くんも青子ちゃんも居てくれたし…) 考えるだけ不安になるとは解っていても、考えてしまう。 (行ったらもう、帰ってこられないのかなぁ…) 考えながらも目的の家に着いて、インターホンを鳴らす。 すぐに返事がして中から快斗が顔を出した。 「よっ!……って、どうした?」 「どうした、って…快斗くんが呼び出したのに…」 「いや…悪ぃ……また泣きそうな顔してっから;」 しょうがねぇな、って笑って、快斗くんは自室まで通してくれた。 「雛ちゃんに見せたいものがあるんだ」 そういって、私を椅子に座らせると、快斗くんはベッドに近づいた。 布団の上に大きな白い布がかかっている。 きょとん、と快斗くんを見つめるが『見せたいもの』らしきものは無い。 こてり、と首を傾げると、快斗くんは慌てて白い布に視線を戻した。 (あー、…もうそんな可愛い顔して見んなって…っ////、) ゴホン、とわざとらしく咳払いをして、快斗はポーカーフェイスを心掛ける。 ──雛ちゃんは、成長しても俺のマジックを“魔法”と呼ぶ。 俺の考えとは異なるものだが。 君が喜ぶのなら、どうか今日も俺の魔法がかかるように── 裏返した布に仕掛けがないことを確認させ、同じ場所へ戻す。 「three」 「two」 「one」 バサァっ、 「─────っ、わぁ……っ」 驚いた雛ちゃんの表情が、今度は一瞬で笑顔になる。 さっきまで泣きそうだったのにな、と俺まで嬉しくなった。 「雛ちゃんに、俺からプレゼント」 「ぇ……この子?」 そういって、雛ちゃんは俺の横に居るぬいぐるみに近づく。 「あぁ、……俺の代わり。 これで寂しくないだろ?」 「─────っ、」 我ながら恥ずかしい事を言ってしまったが、また大きな瞳を潤ませて感激している雛ちゃんはそれどころじゃないだろう。 「ありがとう……っ、快斗くん!」 思った以上に喜んでもらえたようで良かった、と快斗は何処からともなくケースを取り出して雛に渡す。 次にテディベアに手を伸ばしてネックレスを外すと、雛に近づいてそれを首もとに飾った。 「───っ!///」 「…喜んでもらえた?」 真っ赤になった雛の顔を覗きこみながら、快斗がニヤリと笑った。 解っていても、聞きたかった。 「うん…っ、嬉しい/// 大切にする」 本当に嬉しそうに「快斗くんの魔法はすごいねっ」と言って、雛ちゃんはきゅっ、とテディベアを抱き締めた。 「っ!!////」 (だから!! いくら好きなぬいぐるみでも、俺の代わりだって言っただろっ!///) 可愛過ぎんだよ、と声にならない呻きを呑み込んで。 快斗は抱えた膝に顔を埋めた。 戻る |