快斗は胡座をかいて椅子に座り、机の上に散らばった紙幣や硬貨を見つめた。 しばらく前から、マジック用品を揃えたいと頑張って貯めていたものだ。 (……足りるかな) 次の進級と同時に、雛は他の小学校に移ってしまう。 無論、快斗は今まで通りに会うつもりでいた。 しかし雛の涙を見ると、その距離は遠く感じられて、何かをせずにはいられなかった。 (雛ちゃんの喜ぶもの…っつっても、俺よく解んねぇしな……) 仕方なく休日に母親に買い物に付き合ってもらう約束をして、今に至る。 (青子に相談するのも…なんかなー……) 結局考えが纏まらないまま、黒い子供用財布にそれらを詰め込んで部屋を出た。 (あー…、わっかんねぇ……) ショッピングモールで母親とウロウロしながら、快斗は頭を抱えた。 「快斗ー、ちゃんと探さないと日が暮れちゃうわよ?♪」 千影が隣でニヤニヤと笑いながら付いてくる。 助言をする傍ら、やれ可愛い小物やらアクセサリーやらを薦めて惑わせ、楽しんでいるのだ。 (…頼むから、真面目に探すの手伝ってくれよ;) 家に初めて遊びに来た日から、ずっと一緒で。 俺より小っちゃくて。 ふわふわとした女の子。 可愛くて。 笑っててほしくて。 (まぁ、泣いてても可愛いんだけど…) 出来ることなら泣かせたくない。 ──特別なんだ。 『春を先取りした新しい限定品でーす、是非ご覧くださーい!』 見上げた先の店舗で、拡声器を使った女性店員の声がする。 よく見ると、雛が好きなテディベアシリーズを扱っているおもちゃブランドだった。 (確か小さいぬいぐるみ持ってたよな…) 店員が居る売り場まで行くと、少し大きめの新商品らしいテディベアが並んでいる。 座っている状態でも40pくらいはあるか、ふわふわした毛並みは抱き心地が良さそうだ。 (……ん?) テディベアの首もとが、きらりと光った。 きれいな緑色のクローバーをあしらったトップが付いている、ネックレスだった。 「あら、可愛いー。 クローバーなのに、子供っぽくし過ぎてないのね」 持ち主が付けられるようにかしら、と千影も横から覗きこむ。 (ネックレスは別売り、か……) 頭の中で、ネックレスを付けてテディベアを抱きしめる雛を想像する。 「……………///」 (でも、それだとちょっと足りねーし…;) うんうんと唸る快斗の後ろで、くすくすと千影が笑いながら助け舟を出した。 「──はい、快斗。 再来月までお小遣い無しだからね」 「っ!! サンキュ!母さんっ」 すぐに売り場の店員にラッピングの相談をして、店内に入る。 どうやって渡そうか、と考える快斗の笑みは悪戯っ子のようだった。 戻る |