コナンはランドセルを背負ったまま、探偵事務所へと続く階段を登っていた。 (早く元に戻りてぇ…) おっちゃんに手柄を持っていかれるのは癪だが、今のところ博士の発明に助けられながら、なんとか事件解決を重ねている。 しかし、雛に会っても、こんな姿じゃぁな…と溜め息を吐いた。 「さぁ、出してもらおうか…工藤新一を!」 (──、!?) 事務所の扉を開けると、関西弁の男が声を荒げていた。 「はよ出さんかい!」 「────っくしゅ!」 「コナン君!…コナン君も風邪?」 蘭が近寄ってきて心配する。 男の隣には、制服姿の雛が居るのが見えた。 「だから言ったでしょ?学校にも来てないし、蘭も会ってないの」困ったように笑う彼女が笑う。 (あんな男知らねぇ…。人見知りの雛が普通に話してるなんて……誰だ、?) 「雛姉ちゃん…?」 「こんにちは、コナン君」と、彼女が微笑んでこちらを見る。 「コナン君も新一も…風邪が流行ってるのかしら」と呟いた蘭の一言に男が反応した。 「工藤が風邪?」 電話で連絡を取っているのだと蘭が告げると「せやかて、あんた工藤の女やろ?」と男が問い詰める。 「お…女!? 誰があんな推理オタクと! それは雛のことよっ」 「蘭…それ、誤解だよ?;」 「ん?──あぁ、やつの片思いっちゅー訳か。雛は可愛えもんなぁ」男がニヤリと口の端をあげた。 「───っ!!///」 雛は雛で「なに言ってるの、」と気にしていないようだが。 (こいつ、雛の前でなんてこと…!///) 「雛、姉ちゃん…この人と知り合いなの?」 「ぇ、あぁ…新一に会いたいんだけど知らないかって、帰り道に偶然声をかけられてね?」 (なんだ、とりあえず初対面か…;) 「今は居ないって話したんだけど、幼なじみの蘭なら知ってるかもしれない!!って聞かなくて…探偵事務所まで案内したの」 「まぁ…雛は俺のこと、知っててくれたけどな?」 「新一がインタビュー受けた雑誌に、平次も載ってたからね」 (おい、それだけでそんなに仲良くなったのか?…そういえば雑誌の取材いくつか受けたか?……あまり記憶にねぇな…) が、視界に映る二人を見て口の中に苦いものが広がる。 (『へいじ』だぁ?? なんでこう、他の男に言い寄られてんだよ…) 今まで黙っていた小五郎も「雑誌?あんた誰だ?」と口を開いた。男が帽子を被り直す。 「俺の名前は服部平次。 工藤と同じ高校生探偵や」 『西の服部、東の工藤』と並び称された仲や、と付け加えられたが、やはり身に覚えがない。 「──で、工藤と電話でなに話した?」 最強読んだ推理小説の話、Jリーグの話、クラスメートのこと…。 俺と話した内容を挙げる蘭に、服部の眼がギラリと光る。 「変やとは思わへんか?」と、服部は蘭や雛のことを尋ねない新一を怪しみ、窓を開けた。 「きっと、どっかから覗いてるんやで。全くやらしいやっちゃ」蘭が焦って窓の外に顔を出す。 「蘭……、」新一を心配しているであろう蘭を見て雛が思わず呼びかける。 しかし次の瞬間、横に居る服部を見つめて微笑んだ。 「──新一はそんなコソコソしたりしないよ。…平次と同じように、自信たっぷりに堂々と推理する人なの」 (……雛、///) 「、とにかく! 俺はあいつに会うて確かめたいんや。 工藤新一がホンマに俺と並び称されるような男かどうかをな…」 「───っくしゅ!!」 「──おぅ、ボウズ。風邪やったら俺が、ええ薬持っとるぞ!」 机の上で空になったビール缶をバックで寄せ、中から瓶らしき物を取り出す。 しばらくして、中身を飲んだコナンの身体がフラフラと揺れた。 「──っ、なに飲ませたの!?」蘭が慌ててコナンの身体を支える。 「パイカルっちゅう中国酒や、」悪びれもなく言う平次に、雛の眉がピクリと動いた。 「…こんな物飲ませないで」と、静かに彼女が言い放つ。 縮んでいるコナンの負担を考えると、下手なものを口にさせるべきではないのは明らかだ。 だが、コナンも初めて見る彼女の一面に目を開いていた。 普段の泣き虫で可愛らしい彼女と違ってこんなことを言うのは、俺を想ってのことだろう。 仕方なくといった感じで、服部が『悪い』と呟いた。 静かに怒った彼女の瞳が、哀しげに揺れたことに気付いたからか。 「コナン君…大丈夫?」 「うん。ひな、ねぇちゃん…///」 しゃがんで俺の顔を覗き込む、彼女の手にふれた。 ──だが、それも束の間。 依頼人が来て仕事の話になり、これから皆で行くことになった。 「雛も行くやろ?」と服部が聞くと、雛は俺の頭を軽く撫でて「コナン君も大丈夫そうだし、帰るよ?…晩御飯の支度もしなきゃ」と返した。 「もうお酒飲ませないでね?」と服部に笑いかけているところを見ると、もう怒ってないらしい。 「じゃあ、お仕事気をつけてね」 入り口の扉を開けて雛が微笑むと、柔らかい髪が風にふわりと靡いた。 「あいつ…大人しゅうて可愛いだけかと思たら、意外と底の芯はしっかりしてるんやな…」 閉められた扉を、服部が見つめた。 ニヤリ、と笑みが浮かんでいる。 (あの蘭より細ぇ芯だけどな……。ま、だからこそ守ってやりてぇんだけど…///) ゴホゴホと咳をしつつ、コナンも閉じられた扉を眺めた。 「…気に入ったわ。どうせ工藤と付き合うてないんやろ? 推理で勝って雛を貰たる♪」 (なっ────!?;) 一瞬で、また更に具合が悪くなったようだった。 同時に、やはり目を離せない、とコナンは部屋を出る服部の後に続いた。 戻る |