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外側
 
河原でブツブツ独り言を言っていると、すくっと犬が立ち上がった。

「なんだよ」
「わふっ」

横にいた犬が、のっしのっしと俺の正面に移動して姿勢を低くした。

「…なに?乗れってか?」
「アン」

さいですか。遠慮する理由も特に思いつかず、恐る恐るでかい背中にまたがる。収まりのいい位置を探している間に、犬は立ち上がり、あろうことか走り出した。

「いや、おま、ちょっと待て!タンマ!」
「わふっ」

わふっじゃねえよ!揺れる、すげえ揺れる。どこに捕まるか迷った末に犬の首に腕を巻きつかせてしがみついた。あ、ちょっと安定する。毛皮が柔らかくて、他人の温もりみたいなものを久々に感じた気がした。いや違う、こいつ人じゃない。

「で、お前どこに行くわけ」
「バウ」

わかんねえよ犬語は。日本語で喋ってくれ。異国語もノーサンキューだ。

***

「って家かよ!」
「アウ」

なんなのこいつ?なんでわざわざ人乗せて全速力で家に帰ったの?そんなにお家が恋しかった?そうか悪いな気が利かなくて。空気を読むみたいなことは大の苦手なんでね。

「うわっ、ちょ、待って」

俺を乗せたまま犬が階段を上る。待て、滑る、滑るから。必死にしがみつく。

「ワン」

一声鳴くと、器用に引き戸を開け家に入る。鍵閉めてないのかよ。不用心な。のっしのっしと居間に進むと、突然振り落とされた。

「はあ!?なんなのお前、もうちょっと丁寧に降ろしてくれてもいいと思うよ俺は!」

居間の奥の、襖に向かっていく犬。なんだよ、無視かよ。犬にも無視される俺って。自分の不甲斐なさを嘆こうとしたところで、犬に今までで一番低い声で呼びかけられた。

「…なんだよ」

無言で尻尾が振られる。ついて来いよってか?
襖を開けるのを若干手間取っているのを見かねて、代わりに開けてやる。礼も言わず入っていく犬。なんの部屋だろうか。察しはついてるけど。
ふと思い至って、奥の押入れの扉を開けてみる。そこにしっかりと布団が収められているのを見て、少し意外に思う。ふーん。そんなもんか。

「ワン!」

隣で犬が箪笥に向かって吠えた。引き出しの一つを鼻でつつく。開けてみるとそこにはセンスがいいとは思えない、黒に赤い線の入った服が大量にしまってあった。

「これ着ろってか」
「アウ」

賢いんだか馬鹿なんだかわかんねえな。仕方なく、着ていた派手な着物を脱ぐ。シャツを着て、シャツの隣の黒いズボンもついでに履いて、全身真っ黒になった。もう一度上から着物を着る。意味わかんねえ。で?片袖を脱ぐんだっけ?右?左?
頭が悩んでいる間に身体が勝手に右袖を脱いだ。ふーん。

「わんっ」

帯を締めたところで、犬がどっからかベルトを咥えて持ってきた。何?それもつけるの?はいはい分かりましたよ、つけりゃいいんだろ。

「わふ」

犬が俺の周りをくるくる歩き回る。ベルトもつけ終わって、居間の机に放置されていた木刀も差して、完成だ。カンペキ。いや知らないけど。多分。いつもの服装。いつも通りの坂田銀時。

「……外見を取り繕ったところで、中身が変化するわけでもないけど」

別に犬に言ったのではない。ただの独り言だ。



 

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