家
「さて、行くか」
どこに行くのかはさっぱり分からんが、でも、追いかけないと。行動が遅いのはまあ俺だから仕方ないということで。
その瞬間、鳴り響いた轟音。
家の柱から天井から何もかも崩れ落ち、辛うじて残った壁と、そこに張り付く俺。どうやら空から何かが突き刺さってきたらしい。いやいやいや。
「おーい、犬っころ、無事か?」
「わふっ」
そりゃ良かった。不幸中の幸いというか、むしろなんで無事だったんだ、という感じだけども。
あ。
無事じゃ、なかったわ。自分の足に破片が突き刺さっていることにも気づかないなんて。アホにもほどがあるというかなんと言うか。
「あはははは!」
家の外…もう何が外なのかよく分からないが、とにかく壁の向こうからバカみたいな笑い声が聞こえてきた。なるほど、聞き覚えがある。
「たつま…?」
姿を見に行こうと一歩目を踏み出して、あっさり崩れ落ちた。あれ。意外と歩けない。想像より怪我が深いらしい。やれやれ。
「金時の家まで案内してくれるがか。江戸っ子は親切じゃの。すまんのお、あははははは〜」
金時じゃねえよ銀時だよ。自分では叫んだつもりだったが、しかしさっぱり声なんて出ちゃいねえ。そのまま声のでかいバカは警察に連れていかれたらしかった。
え。ていうかどうすんのこれ。
とか考えてる間に意識はブラックアウト。そりゃそうだ。だってひどい怪我だよこれ。
***
またまた病院のベッド。果たして記憶は飛んでいるのだろうか。そもそも周りに誰もいないんじゃ、確認のしようがない。枕元を見る。さっきまで俺が着ていた奇天烈な服装がそこに鎮座していて、少なくとも何十年も経ってはいないだろうなと予想をつける。
右足はご丁寧に処置がしてあり、お手数おかけしましたねえと思いながら最低限まで外す。とりあえずこっから動かないと、色々状況判断出来ないって。
「銀時」
「…ババア」
ババアがくたばってもいなけりゃ腰が曲がってもいないので、やはり時間はそれほど経っていないらしい。安心。ていうかさっき怪我した足が治ってないんだから、これ記憶失ってないんじゃね?セーフセーフ。
「ほらよ」
ババアから寄越されたのは、松葉杖。いや、歩くのに必要だけどさあ。もっとこう、なんか便利なもの欲しかったよ俺は。具体的な例を挙げろと言われてもさっぱり思いつかないが。
「さっさとガキども追いかけな」
追いかけるったって。どこ行ったか見当もつかねえよ。
「お前は、とにかく、家に帰るだけでいいんだよ」
こっちの思考を読んだように正解を投げつけてくるババア。ハイハイ頭が上がりませんね。ん?ていうかさ。
「家つっても、壊れてるじゃねえかよ」
俺が言うと、ババアはそれはそれはおっかない顔つきで舌打ちをした。
「つべこべ言わないでさっさと歩きな。あいつらのいるところがお前の家だろう」
「へーへー」
あいつらのいるところが家だって?へえ、そりゃすげえや。
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