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流行
 
あの後、ヅラと別れて俺と異彩コンビはどこへ行くともなく歩いていた。いや、目的地に向かってるのかもしれないけど俺には分からん。

「銀ちゃん」
「……うん?」

これ俺に向かって言ってるんだよな。違ったらすげえ恥ずかしい。

「なんでそんな格好してるアルか」
「なんでって…」

まあ、確かに、白に水色の渦巻き模様の着流しは派手だし良いのか悪いのかよくわかんないけど。でもそんな言われるほどか。ていうか文句があるなら出来れば出掛ける前に言って欲しかった。

「なんで普通に着てるアルか」
「いや、神楽ちゃん、インナー着てない状態で片袖脱いだらわりと危ない人、」
「なんでいつもみたいに着ないアルか!」

え、片袖脱ぐ?脱ぐのが普通なの?インナーを着る?ちょっとなに言ってるかよくわからない。流行についていけません。記憶喪失なんで。

「いつもの格好してヨ…いつもの銀ちゃんに戻ってヨ!」
「あっ、神楽ちゃん!」

そう吐き捨てて走り去ったオレンジ髪。メガネもそれを追う。あ、これ俺も追いかけた方がいい感じ?でも追いかけて何言えばいいんだよ。事態を悪化させるだけのような気がする。なんせ対人スキルが3年分しかない使えないおっさんですから。…もうおっさんか。時が経つのは早い、というか俺の場合早すぎて困る。

「わふっ」
「うわっ、何おまえ、デカっ」

体長七尺くらいはありそうな白い犬が俺の後ろからぬっと現れた。眉毛っぽい模様が勾玉みたいになっているのが特徴的だ。
突然、頭を噛みつかれそうになって慌てて逃げる。いや、ビビるわ普通に。

「おま、噛むなって、そのデカさで噛み付いてくんのはじゃれてるつもりでも事故だから、いてえから」
「わふ」

わふ、じゃねえよ。

「なに?腹減ってんの?」
「アン!」

そのアンはどっちのアンだよ。肯定なのか。まあめんどくさいから肯定ってことでいいよね。ちょっと待ってろ。

***

ガキどもに連れて行かれる時、机の上に放置してあった財布を咄嗟に持ってきてよかった。その中に入ってた、恐らく俺の金である千円札で犬の餌っぽいものを買う。店に入る時、勝手に開く扉にビビったのは秘密だ。どうなってんだあれ。
犬の絵が書いてある袋を、その辺の河川敷でデカい犬にあげた。ついでに買った握り飯で俺も腹ごしらえをする。

「うまい?」
「アン」
「あー、それ肯定だよな?」
「アン」
「んーもう肯定でいいや。そういうことで」
「わふっ」

会話が成立しねえなあ。まあ犬だしなあ。

「なあ、俺どうしたらいいと思う?」
「バウ」
「あ?そんなもん自分で考えやがれこのクソ野郎だって?うるせえな」
「アン」

別に言われてないけど。犬ってのは自問自答にもってこいである。

「あいつ…なんであんな怒ってたの?」
「バウ」
「ていうか最近の流行って何?」
「バウ」
「犬に聞いてもわからんかそんなん…」
「アン」

流行に即してない格好だからダサい一緒に歩きたくないってことか?いやでも街を歩いていた限り片袖を脱ぐなんて奇妙な格好をした奴は見かけない。そうなると。

「なあ、俺っていつも片袖を脱ぐみたいな奇妙な格好して歩いてたわけ?」
「アン」
「あー、そう、そういう…」

どうしようかなあ。俺は、俺になりきった方がいいのか?なんだよそれ。意味わからんから。



 

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