×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


11

なんだ。こんなものか。初めて入ったラブホは面白かったが、それ以外は、どこまでいっても私は私のままで、世界は世界のままだった。誰も、助けてなんかくれない。そんなの知ってた。助けてほしかったわけでもない。自分で選んだことだ。もしかしたら、私が助けてと言えば誰か親切な人が助けてくれたかもしれない。私はそれをしなかった。助けてもらう努力もしないくせに、誰も助けてくれないと世界を恨むのはお門違いだ。わかってる。悪いのは、私を傷つけたのは、私自身だ。涙が出てきそうになって、財布と携帯を引っ付かんで走り出した。やることやったんだ。あの男だって追いかけてはこないだろう。夜明けにはまだ早い深夜。お財布の中の私の価値は、6万円。ラッキーセブンになりきれない、わたし。
涙が出てきた。感情が高ぶるとすぐに泣く自分の体がめんどくさい。でも、別に泣いたっていいだろう。世界は私に無関心だ。そんなことは昔から知っているのだ。私が泣いたって、別に困る人はいない。だから、泣いてはならない理由もない。泣いたって、別に損はしないし得もしないのだ。だったら、流れる涙を別に放っておいたっていいだろう。
…なにやっているんだろう。こんなことをするくらいなら、さっさと死ねばよかったんだ。別に未練もないくせに、なんでしがみつこうとしたんだろう。死にたくない人間に聞きたいのだが、なぜ死にたくないの。別に、命なんて、そんな価値があるものなのかね。
そうだな、ここで死ねば、私は身元不明の死体になれる。家族に迷惑かけることはない。友達を泣かせることもない。それって、最高じゃないか。死体を処理する人には申し訳なく思うが、ここは江戸だしそう珍しいものでもないだろう。どこで死のう。北海道の山奥で凍死するのが夢だったが、そもそも飛行機も新幹線もあるのか怪しい。別に江戸で構わないだろう。ああ、ここが江戸なら北海道は北海道じゃなくて蝦夷か。首吊り死体にも溺死体にもなりたくはないので、飛び降りでいいかな。歩道橋を上る。ここが飛び降りる場所に困らない都会の街並みでよかった。本当はもう少し綺麗で、迷惑のかからなそうなところで死にたいんだけどもう疲れてしまったので許して欲しい。さっき稼いだ6万円は、私の死体を処理するために使われればいいと思う。手すりに手を掛け、空を見上げる。月は雲に隠れて見えない。雨が降りそうだった。さよなら。
「てめー、死ぬ気か?」
声をかけてきたのは、白髪の男。
本当だ。ヒーローって遅れてやってくるんだね。
ちょっと、遅かった。遅いヒーローは、もうヒーローではないのだ。




prev next
back