朝の気配がする。
冷えた布団に腕をくっつけるのが気持ちよくて、今が何時か知らないがもう少し微睡むことを決意する。硬いベットに硬い布団ではあったが、元より贅沢な暮らしはしていない。食事さえ摂れてれば、ね、わりと幸せ……ん?
「…え、うわあっ!」
慌てて寝転がり降ってきた刃を避ける。ついさっきまで私の心臓があった位置に深々と刺さるブレード。あ、危ない、いや危なくない、私あれ刺さらないし、いやでも、え?待って待ってちょっと待って、
「おま、なんでいんの!?」
「朝っぱらからうるせえ」
私のベッドの横に兵士長さまが鎮座しておられた。当たり前だが夜這いなんていう可愛いもんじゃない。いや夜這いが可愛いのかは知らんしそんなのはどうでもいいんだけど、これ完全に殺りにきてただろ。
「え、待って?なにしてんの?なんで私殺されてんの?」
「チッ…死んでねえよ」
そのままブレードを引き抜くと背中を向けて淡々と去って行く。まるで何事もなかったのように。え、は?
「いやいやいや、え?なに?結局なんだったの?」
バタンと閉められた扉に、その呟きは遮られた。呆然としている私と、その下の穴の空いた布団。え、待って、許せないんだけど?まあ死ななかった、死ななかったけど布団に穴空いたしあの勢いでぶっ刺されてたらさすがに絶対やばいし布団に穴空いたよ?布団に穴空いたよ?はあ?訴えれば勝てる気がするから訴える場所をくれ。こんなことされたら怖くて夜しか眠れないだろうが。
***
混乱した頭でも一応身支度を終えることができた。呼びに来たグンタとともに今日も立体機動に挑む。最近は模型を使って巨人のうなじを削ぐ練習をしている。赫子が使えないのが不便だが、仕方がない。まあいざとなったら武器なんて放り捨てて使いますけど。
一体、二体。巨人を片付けていく。まどろっこしいなあ。人間のフリなんて果たして役に立つのかね。
…うん?なんか、視線を感じる。どこにいるのかはっきりとはわからないが、誰であるかくらいは想像がつく。
「グンタ・シュルツ!ちょっと休憩する!」
言い捨てて、相手の返事は聞かずに上昇した。一番高い木の上に登って見渡すと、いた。見つけた。
別に必要のない立体機動装置をわざと使ってこちらを監視していた男の元まで跳ぶ。ちょっとした崖の上に立っていたので、その隣に着地した。
「ねえ、なんなの?特に朝。何がしたかったわけ?」
「……」
だんまりかよ。完全に目は合っているので、全くの無視というわけでもない。
私の方が数センチ高いので、見上げられる格好だ。こいつの元々の目つきが悪すぎて、睨まれているのかただ見られているだけなのかはよくわからない。
「ねえ、」
「そろそろリヴァイ班と合同で訓練を始める」
はあ?何言ってんのこいつ。私の話聞いてた?そもそもお前が…
「うわっ、うぎゃあ!」
慌てて崖に立体機動のアンカーを突き刺し落下を阻止する。咄嗟に赫子を出さなかった私超優秀。じゃなくて。
突き落とされたんだけど?
「はあ…?あのやろッ」
今度という今度は怒った。本当に意味がわからない。訓練を始めるとか言ってるのにどうして殺そうとするわけ?もう逃がさない、絶対に事情を詳しく聞いてやるという気持ちで崖を登る。が。
「いないし!」
逃げられた。この怒りのやり場をどうしたらいいかわからなくて、とりあえず叫んだ。
「今度会った時、覚えてろよ!」
生まれて初めて、漫画の中の雑魚キャラの心境がわかった気がした。
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