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エルヴィン・スミスが訪ねてきてから1日経った午前中。バタバタバタッとうるさい足音がしてから、この部屋のドアがノックされた。誰だ。

「はい」
「ああ!あなたが噂の!」

扉を開けると、眼鏡をかけた男だが女だかよくわからない人間が立っていた。開けてから思ったが、勝手に団長以外と会ってよかったのか。まあいいや。

「はい化け物ですよ。大声で言わないでね。私に何か用?」
「ああ!そう!用があるんだ!入れてもらえるかな?」

少し考えてから、こいつを部屋に入れるメリットよりもデメリットの方が大きいだろうという結論を出した。それに、私が従わなければならないのは、あの気に食わない団長の命令のだけのはずだ。目の前の人間の言うことを聞く理由はない。

「私に用はないから帰ってもらえるかな?」
「私には用があるから入れてくれ!」

聞けよ。

「あなたと話をしたくない。なんとなく。直感で」
「へえ!直感っていう概念がある生き物なんだね!」

なんだこれ。腹立つな。私はお前らのモルモットかよ。

「不快だ。帰れ」
「いいのかい?私に協力してもらえば調査兵団の安全性が上がるかもよ?」
「だから?別にそんなのどうでもいい」

眉間にシワが寄っているのを感じる。だめだ、熱くなるな。自然と握っていた拳をパーにする。

「どうして?調査兵団に守りたい人がいるんでしょ?」
「はあ?」

低い声で凄んでみても、目の前の人間はニヤニヤとした笑みを崩さない。何を知っているんだろうか、こいつは。

「入れて、もらえるかな?」
「チッ」

舌打ちが漏れる。落ち着け私。
招き入れるのは癪なので、ドアの前から数歩下がる。すると、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま遠慮なくベットにどかっと座られた。もう一度舌打ちをしながら、私は扉を閉める。仁王立ちの私と、ベットに座る無遠慮な客人。昨日とは正反対の立ち位置だ。


「ハンジ・ゾエ。よろしく!」
「…ササキ」

握手を求められるのを無視しながら、苗字を吐き捨てる。1人にバレた以上、もう何人に知られても変わりはないだろう。あいつの目の前でも同じように名乗れるのかと聞かれるとそれはまた別の話なんだけど。それは今どうでもよくて。

「小賢しいジジイから何を聞いた?」
「…じじい?」
「エルヴィン・スミス」
「あはははははは!」

団長をジジイ呼ばわりされ、怒るどころかベットで転げ回って笑いこける。あいつ、人望ないんじゃねえの?

「エルヴィンからは何も聞いてないよ」
「あそう」
「むしろエルヴィンに何を言ったのかが気になるなあ」
「…黙れよ」

また舌打ちが漏れる。そもそも、根本的にこいつと性格が合わないのではないかという気がしてきた。

「じゃあなんで、」
「誰かを守りたいなんて思ったのか…って?」

台詞を奪われて腹が立つが、その通りなので黙り込む。衝動的に何かを殴りつけそうになるのを防ぐために腕を組んだ。
客人は、ニヤニヤ笑いをさらにパワーアップさせて、いっそ清々しいほどの笑顔で言った。

「カマを掛けただけだったんだけど、図星のようだね!」

はあ…?
その一言で、私の心が完全に折れた。馬鹿すぎる。

「あーこれだから頭いいヤツは嫌いなんだ…ていうか私の頭が弱いだけか…?死ねよ、無意味に死ねよ」
「あはははは!嫌だね!お断りする!」

軽快に笑い飛ばされて、怒る気力も失せた。床に胡座をかいて座り込む。もうどうにでもなれ。

「で?もしかしたらって思ってたけど、本当にそうとは思ってなかったよ!誰を守りたいの?」

うるせえ黙れ。

「ひどいなあ。教えてくれたっていいじゃないか」
「むしろ教える理由がどこにあるんだよ」
「いいじゃん!私とササキの仲でしょ!」

はあ?

「いい加減殴るぞお前」
「え!是非お願いしたい!大怪我しないように手加減してね!いやでも手加減なしの一発を体に受けるのもそれはそれで魅力的…本当はソニーとビーンを殴ってもらいたいんだけどでもあの子達が死んじゃったら困るし…あ、ソニーとビーンっていうのは捕まえた巨人の名前なんだけど」

ブツブツ言いだしたが、ドン引きだ。マゾヒストだったのか。

「あ、そうそう思い出した。本来の目的を忘れるところだったよ」

忘れたままでよかったんだけどね。できればこのまま是非とも帰っていただきたい。

「頼む!解剖…いや、実験させてくれ!」
「断る」

はあ、とため息をつく。マゾヒストでマッドサイエンティストかよ。

「そう!それで最初の話に戻るんだけど…」
「ど?」
「君は誰かを守りたいんだよね?君の生態が解明されることで巨人の身体の解明にも繋がり調査兵団が生き残りやすくなる!はずだ!」

一気に言われて頭がこんがらがる。わたしの生態が解明されるて巨人の身体の解明にも繋がって調査兵団が生き残りやすくなる…ふうん。

「お断りだね」
「ほう!なんで?」

床に座っている私とベットに座っているマッドサイエンティスト。上にある顔を睨みつけながら言う。

「そんなことしなくても、私が直接守ればいい」
「…へえ。強気だね」
「はは、化け物を舐めるなよ」

団長サンには完全に主導権を握られたが、だからと言って簡単に懐柔できると思われては困る。それに、私は特に理系の人間が嫌いなんだ。

「そっか…それじゃあ仕方ない。今日のところは諦めるよ。あ、でも仲良くしてくれると嬉しい!」
「拒否する」
「わー!ばっさり断られた!」

立ち上がり、わざわざドアを開けてやる。

「どうぞお引き取り願います」
「うん!また来る!」
「二度と来んな」

思いっきり扉を閉める。はー、疲れた。なんなんだあの底知れぬパワーは。なんと言うか、ここの人間はことごとくもう関わりたくないと思わせるタイプが多い。まあ、もともと関わりたいと思う人間なんてそんなにいないんだけど。


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