×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


目の前の男は、淡々と、驚く素振りも見せずに聞いてくる。

「それは、なぜ?」
「あいつを守ると、私がそう決めてしまったから…」

顔が上げられず、自分の膝の上の拳に目をやる。いつの間にか握りこんでいた手は、力を込めすぎて白くなっていた。
それを隠すように腕を組み、精一杯の作り上げた笑顔で言った。

「それに、人類最強を守れるのは、人外しかいない。化け物しかいないでしょう?」

しかし一度は上げた目線を、男の鋭い眼光を視界に入れたことにより反射的に下げてしまう。ダメだ。こんなところで負けていては。化け物のくせに。

「その割には、親しい様子を見せないが」

何も、言えなかった。あいつと自分が知り合いなのかどうか、私にも分からない。

「リヴァイは…関係ない。私のことは知らないよ」

それでもいいと、自分に言い聞かせるように言った。

「では君は、一方的に知っているだけの人類最強を、殺されるかもしれない調査兵団に入ってまで守ろうとしているのか?」

もし、あいつが、私のところに来た過去なんてない、違うパラレルワールドの人間ならそうなるのかな。

「ああ、そうだよ」
「…そうか」

心の中で何かを訴えているような自分の声は、徹底的に無視した。

「それでは、君のその感情を信用して、調査兵団としてではなく、私個人と契約を結んでもらいたい」

…聞きたくもない。聞きたくないが、拒否権もないのだろう。

「なんだよ」
「こちらからの条件は一つ、簡単だ。私の指示に逆らわず、必ず従って行動してもらいたい」
「…で、私のメリットは?」

簡単だ、と言いながらすごいことを強要してくるのはやめていただきたいのだが。

「私の指示に従うことで、リヴァイが命を落とす可能性を低くすることができる。以上だ」
「はあ!?」

それは…なんというか、すごい自信ですねと言うか、なんでそれを私が信用すると思ってるんだ、というか。

「従わなかったら?お前らと仲良しこよしするのをやめてやると言ったら?」

流石に人類最強様を人質にすることはできないだろう。

「そうだな。従わないも、辞めるも君の自由だ。しかし私は、リヴァイの命は確かに大切だが、人類のためにリヴァイが死ぬしかないと思ったらそう行動する人間だ」
「なっ…!はあ?え、てめえ…」
「リヴァイはここを辞めようとはしないだろう。私からリヴァイを守るためには、近くで見張っているか、兵団の戦闘力を上げるかしかない。どちらにせよ、君が調査兵団に所属してもらう必要がある」

狡い。そんなことを言われたら、私は従うしかない。何が契約だ。私が拒否しないことが前提じゃないか。

「…お前を、今ここで殺すと言ったら?」
「私は殺されるだろう。そして、あなたはここにいることができなくなる。そうだな、リヴァイの生存率も下がるのではないかと思う」

私の弱い頭では、どこまでがハッタリでどこまでが真実なのか分からない。

「そんなに人類が大事かよ…?」
「ああ、大事だな。少なくとも、自分のことよりは」
「あっそ」

いつの間にかベットから立ち上がって目の前の男に迫っていたらしい。最初と同じようにベットに座り、そのまま背中を倒してベットに寝転んだ。

「君は、リヴァイと自分。どちらが大切なんだ?」

どっちが、大切か?
もう何も悟られたくなくて、両腕で顔を隠しながら答える。

「知らないよそんなの…私もあいつも、死んだことないんだから」
「そうか」


一時の沈黙。結局、こいつの掌の上で転がされただけなのだろう。ああ、もうどうしようもないな。
ため息をついたところで、あることに気づいて勢いよく体を起こす。

「ていうかお前っ!始めからこのつもりで…?私の目的、最初っから知ってたのかよ!?」
「知っていたわけではない。ただ、推測していたものを君の態度から確信に変えただけだ」
「このッ…あーもう、くそ…」

もう嫌だ。こいつと会話していたくない。なにもかもボロが出そうだ。もうほとんどバレてるけど。

「私は弱いのでね。なるべく力の強い者は味方につけたい」
「はいはいそうかよ…もう出て行けよ頼むから…」
「ああ、そうさせていただく。長いこと失礼した」
「…あいつが死にそうになったら、お前の指示は無視するからな」
「構わない」

はあ。ようやく落ち着ける。
そう油断した私に、トドメの一撃が降ってくる。

「そうだ、最後に。気がつかなかったかもしれないが、君が現れた時、リヴァイは確かに動揺していたよ」
「えっ…なっ!…は?」

では、よろしく頼む、心優しい化け物殿。
そう捨て台詞を吐いて、開けた扉を閉め去っていくジジイ。狸ジジイ。

…どういうことだよ。

そうか。私のことを見て、あいつは動揺、したのか。

「で、だから?それがなんだよ…突然あんなことがあったら、誰でも驚くでしょ…」

一人きりになった静かな部屋で呟く。

そう思いたかったのに。期待してしまっている自分の内側の感情に苦々しさを感じてため息をついた。


prev next

back