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あの後。主人公を開放してあげて、調査兵団の拠点らしきところに来た。主人公の彼女らしき女の子が半端なく怖かった。
移動するときは、服の背中を赫子で破いてしまったため死体からマントを頂戴した。お腹は空いてなかったとは言え、あの死体の山を逃したのはちょっと惜しい。

「それにしても、」

まんまと与えてもらった部屋のベッドで寝転びながら、一人呟く。質素な部屋だが仕方がない。窓と扉とベッドくらいしかないが、十分に住める範囲だ。

「忘れてるのか、知らんぷりしてるのか…」

ちびがもっとチビだった頃に会ったわけだし。今では年齢抜かされちまったの本当に笑える。それでも身長は負けてないのも笑える。
まあ、別に。知り合い面されても困るからいいんだけど、さ。あいつとこの化け物が知り合いだとバレても面倒だし、あいつは私の唯一で最大の弱点でもあるのだから。流石に、兵士長様を人質にするとも思えないけど。

ドアの前に気配を感じて、向こうが開ける前に乱暴にドアを開いた。誰なのかは、ニオイで分かった。

「やあ」
「……」

華麗にスルーされた。ひどい。

「エルヴィンからの伝言だ。話がしたいから15分後にここに来る。大人しく待て」
「わかった。大人しくいい子で待ってるよ。おもてなしはできそうにないけど」

これも完全にスルーされた。心が折れそうだ。

「それから、この部屋から出るな。鬱陶しい監視がいねえだけありがてえと思え」
「監視がいないのはいても無駄だからでしょ」
「以上だ」
「あ、ごめんふざけた、ねえちょっと待っ…」

話の途中でピシャリとドアを閉めて出て行かれた。
…なんなんだよ。そう思いつつも、もう一度ドアを開けて追いかけるには、足が重すぎた。
ここまで来た私が、馬鹿みたいじゃないか。そりゃ、確かに、この世界に知り合いは一人だけど、別にこんなところに来なくたって、街の中に潜んでいれば私は一人でも生きていけた。食べ物には困らないし、敵も縄張り争いもない。東京より平和なくらいだ。なんのために。お前は、お前は数十年前のことかもしれないけど、私は、まだ一年も経ってない。ああ、違う。それだ。その差が大きいのだ。あれから数十年生き抜いたお前が、今更私を、私との記憶を大切にしているわけがないのかも、しれなかった。小さい頃、たった一年一緒に過ごしただけの私を、しかも、敵と同じく、人間を食べる私との思い出を、覚えていろなんて誰が言える?
でも、私のことは覚えていなくても、例えば海の色とか、カップラーメンの味とか、排気ガスの匂いとか、車のエンジン音とか、コンクリートの感触とか、そういうのは覚えていないだろうか。そういう、異質な記憶が残っていたりしないだろうか。記憶が残っているのなら…
いるのなら?覚えていたとして、なんだ?私は、何が欲しいの?彼と私が出会ったのは意味のないことではなかったという証明?彼が私を思い出せるようなきっかけ?彼が昔私のところに来た人間だという証拠?
それに、そもそも、私が守りたいのは、本当に「この」リヴァイなのだろうか。全くの別人なのではないだろうか。さっきも考えたことが、また頭の中をぐるぐる巡り出す。こいつは、私のところになんか、来てやいないのではないだろうか。第一、成長した人間は、同じ人間と言えるのだろうか。細胞が作り変わって、考え方も変わった人間は、同一人物と言えるのだろうか。私は、「この」リヴァイを守る。それで、いいのだろうか。

分からないことだらけの私にも一つわかるのは、彼の心臓は、彼一人のものではなくなってしまった、ということだ。私の心臓を彼に捧げたって、彼の心臓はもうそこにはないのだ。

…嘘つき。ここにいるって、あの時言ったのに。まだ、さよならも言ってないのに。

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