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「はあ?」

人質にした少年に、何言ってんだこいつ意味わかんねえみたいな顔をされた。うん、私も自分が何言ってるのかわからないよ。
でも。
…腹をくくった。ここまで来たら、このルートで最大限の結果を出してみせようではないか。

「トップの人間は誰?」

心の中はさほど落ち着いてはいないが、冷静な声を作り出す。すると、金髪の真面目そうなおじさんが出てきた。

「私だ。…要件を聞こう」
「あなたたちが私の交渉に応じなければならない理由はいくつかある」

言いながら視線だけで辺りを見回す。目の前のトップのおっさん。私とそいつの周りを囲む兵士。さらにその奥で巨人を倒してる人間たち。ついでに私の赫子に捕まってる主人公。多分こいつのせいで、女の子がすごい形相で睨みつけてきている。

「まず」

トップのおっさんのすぐ後ろにいる、目つきの悪いチビは見ていないことにした。あーどうしよう。

「一つ目。交渉を破棄して私を殺そうとした場合。あなた達が私を殺すことは、できないとは言わないけど、私は死ぬまで全力で抵抗する。私が全力で抵抗したら、あなた達は百人近くは死ぬと思う」

うそ。ちょっと盛った。その半分くらいだと思う。まあいいんだ、脅しだから。

「それに、」

ちょっと貸して、と言いながら近くにいた兵士の武器を赫子で奪い取って、思いっきり自分に突き刺した。当たり前のようにその剣は粉々になる。
あ、貸してって言ったのに壊しちゃった。ごめんね。ついでに僅かに柄に残った剣の欠片も、素手で粉々に握りつぶしておいた。

「少なくとも、あなた達の武器で私は傷つけられないし…その、ひゅんひゅん飛ぶやつがなくても、私はそれ以上に動き回れる」

ひゅんひゅん飛ぶやつって。ひゅんひゅん飛ぶやつって。緊張感ないかよ。

「二つ目。この交渉が成立した場合。見ての通り私は化け物だから、巨人を殺すのに役に立つ」

主人公の男の子はいつのまにか気絶してしまったようだった。この状況がどうこう、というよりも疲労が溜まって、という感じがする。さっきまでよくわかんないけど巨人になってたもんね。
それにもかかわらず、お前を滅茶苦茶に斬り裂いて今すぐ殺してやる、とさっきの女の子に視線で言われている気がする。怖い。

「三つ目。この交渉が決裂した場合。もちろんこの男の子はこのまま殺す」

そう言った瞬間、女の子が、出来ることならお前の腸を引きずり出してその中にミンチにしたお前の肉を詰めてやるっていう顔になった。想像だけど。

「四つ目。交渉を一旦受けてから隙をついて私を殺そうとした場合。お前らからは逃げ出して町の人間を殺しに行くわ」

笑顔で言い切ったが、トップのおっさんが表情を変えず聞いてくる。ビビれよ。

「なぜ調査兵団に入る必要がある?それが君のどんな得になるんだ」

う…うるさいなあ。

「君たちと仲良しこよししたいのはね、」

どこまで言おうか、迷う。本当の理由らしきものは言わない。言えない。二番目の理由として、ご飯の調達が楽だからというのもある。それを言うには、私が人喰いだということを明かさないといけなくなる。いずれ知られるにせよ、今知られるのは得策ではない。気がする。じゃあどうしろと。

「ひ、みつ。秘密」
「君側のメリットが分からない以上、交渉が成立したところで我々を殺すという可能性をどうやって消せばいい?」

あー、これだから頭のいいやつは嫌いだ。なんでこの状況で対等に立とうとしてくるかな。

「死体の調達が楽だから」

言っちゃった。言い訳が思いつかない自分の小さい脳みそに落胆。おっさんの脳みそを移植してみようか。冗談。

「死体?」
「私はね、化け物だから人を食べるの。巨人じゃないよ?違う生き物。だから、生きてる人間を食べない代わりに、あなた達の死体が欲しいの」

ただ、巨人とは関係ない証明ができない。ああそうか。

「それと、壁外に出たいのは、もう一つ理由があってね」

私はそこで、これまでの人生で一番悪そうな笑顔を浮かべた。

「巨人ってやつをさあ、喰ってみたいんだよね。あいつら、どんな味がすると思う?殺さないように食えば、何度でも再生するんでしょ?最高のご馳走じゃないか。バイキングかよ。あはははは」

どうやら、この辺りの巨人は殺し終わってしまったようだった。残念。試食ができない。

「あの木偶の坊共が、食物連鎖の頂点とでも思うなよ」

舌舐めずりして、肉食獣の顔を意識した。まあ肉食獣なんだけど。
とりあえず必死に巨人の仲間じゃないですアピールはしてみたが、こんなんで通用するのか。頭よくなりたい。

「わかった?この化け物を利用できるって言ってるの。感情では納得できないかもしれないけどさ、損得で考えてみてよ」

これ大丈夫?交渉決裂したら困るのは私もだ。殺しに来られたら、殺れない奴が一人だけいる。しかもそいつが一番強いし。

「…分かった。君を調査兵団に向かい入れよう」
「正気かエルヴィン」

ここでようやく喋ったチビ。私のことなんて、知らないような反応。

「それではこの状況をどうやってひっくり返すと?」
「……」

黙り込む人類最強。私は一人、安心と不安が入り混じった感情を表情に出さないよう必死だった。

「ありがとう、よろしく。あ、あと私が人間じゃないってことは内密にしてください。めんどくさいことになりそうだ」
「勿論だ。こちらとしても、せっかくの化け物殿を憲兵団に奪われる訳にはいかない」

憲兵団ってなんだ。まあ別になんでもいいけど。
そして、私達は握手を交わした。ちなみに、ちゃんと右手で。

「名前を聞いていなかったね。私は、調査兵団団長エルヴィン・スミスだ。君は?」
「名乗るほどの名前はないね。化け物で十分」

気づいたらそう答えていた。格好つけて言ってはいるが、怖いだけだ。あいつの前で自分の名前を名乗るのが。もし、名乗っても、何の反応もなかったら…。

「そうか。もし人類を滅亡せざるを得ない状況になったらよろしく頼むよ」
「そうだね、その時は頑張ってやってもいいよ」

まあ、滅亡させちゃうと私のご飯がなくなるんだけどね。
でも、これだけ言えば、まさかこの化け物の目的が「たった一人の人類最強を守ること」なんていうちっぽけな甘っちょろいものだとは思うまい。

人類に心臓を捧げる気はこれっぽっちもないけど。お前のためだったら、私の小さい心臓くらいくれてやってもいいんだ。


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