どーん、と、向こうの方から大きな音がした。立ち上がる煙。どうやら、大砲でも撃ったらしい。様子を見に行きたいのは山々だが、人が多いところに見つからないよう行くのは難儀だ。紛れる一般人がいないというのは不便である。
それにしても。さっきからちびを探しているのだが、影も形も見つからない。別行動をしているのか、こいつらは別に調査兵団でもなんでもないのか。「リヴァイがいない」という事実が存在しているのなら、私にとってその二つに大した差はないけど。
「尻尾を掴みかけたと、思ったんだけどなあ…」
呟いた瞬間、心なしかどっと疲れが襲ってきて壁の上で寝転がる。会えると、思ったんだけどなあ。でも会ってどうしよう。背比べでもしてやろうか。いや、そんなほのぼのしたことじゃなくてさ。とりあえず知り合いじゃないふりした方がいいよね。向こうもきっと察してくれるだろう。…どんな察し方、されるのかなあ。
遠くで色のついた煙が上がるのを、特になんという感情も持たずに眺める。
この世界のリヴァイと私は、知り合いなのかな。もし、あの過去がなかったことになってるとしたら、私の片思いか…。どうしよう、どうしたらいい?リヴァイに会いたくてここまで来たのに、実際に会ったらどうすればいいのか分からない。肝心なところで尻込みする、わたし。お前は強いんじゃなかったの?
また、色のついた煙が上がる。人間は、殺したり食べられたりしながらひゅんひゅん飛んでる。
ここまで来て、うだうだ悩んでいる私は結局、弱いのだと思う。心の弱い奴は、世界を怖がって力をつける。強くなりたい、と言うのは弱いから出てくる言葉だ。
だとしたら、人類最強のあいつは、世界で一番怖がりなのかもしれない。
また、遠くで煙が上がる。なにか作戦でも立てて戦っているらしかった。調査兵団なのか否なのかはわからないが、それに似た組織であることは間違いないようで。
どうしよう、会えたらどうしよう。残念ながら、私も怖がりだ。いなくなって初めて気づく大切さ、みたいなのを、感じるようなどうしようもない馬鹿なのだ。それに耐えられなくて、なかったことにした。忘れたことにしようとした。弱いから。
どうしよう。会えたら、どんな声をかけよう。どんな行動を起こそう。
あいつの迷惑になるようなことはしたくない。でも。でも、出来れば、死なないでほしい。どうか。命を、守らせて欲しい。
「あ……」
遠くから、声が聞こえて上体を起こす。声が聞こえた。聞こえてしまった。分かってしまった。誰の声だか。
「ガキ共…これはどういう状況だ?」
なんで。なんでこのタイミングで見つけちゃうんだよ。
…空気、読めよ。まだ、どうすればいいのか、なんにも分かってないってのに。
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