4輪目

 


「――また、壊されたっ!」


 逃げたアクマを追いきれなくなり、アレンは思わず叫んだ。地面には粉々になったイノセンスに、瓦礫の山。最初はたて続けとまではいかないが、それなりに起きるアクマからのイノセンス破壊成功事例。
 これ(イノセンス)がないと人類は守れないばかりか、立ち向かう街が消えてしまう。


「アレン――、まずはコムイ室長に連絡を」

「分かりました」


 アレンにうながして、リズは周りに怪我人がいないかを確認する。助かりそうな者もいるが、何人かはもう――。
 確認するとアレンの通信の様子もひと段落つきそうな雰囲気だ。報告の頃合いを見計らってからリズは、アレンに向かって小さく呼びかける。


「怪我してる人がいるから、手伝って。私だけの力じゃ抱えきれない――ごめん」


 ひどい怪我をさせる前に、この場から逃がすことが出来なくて。リズの瞳から、そういう感情を読み取ったアレンは報告を終えると、やりきれなさを抱えてしまう。どうすることも出来ないことは理解できるが、どこかで自分がもっと強くあればと考えてしまうのをやめることが出来ないからだ。
 それ故にリズの気持ちに共感出来てしまう。


『アレン君、リズちゃん……怪我人の誘導がすんだら、すぐに戻ってきてもらえるかな』


 作戦を練り直そう。無線から聞こえてきた声に2人はそろって頷いた。



―――*−*−*―――




 私が声をかけられたのは、可愛い"2人"の妹と出会ってから一か月ほどたった時のこと。カタコトでしか話さなかったソレが、徐々に言葉を話すようになってきたことにうれしさを感じていた時。
 晴れた空の下で3人で楽しく街の中を散歩していたら、目の前に現れた男に私がは驚きを隠すことが出来ずに思わず妹を背後に押しやった。私より身長が高く、おそらくは20代後半ほどの男は怪しげな雰囲気に満ちていた。突然出てきた? いったいどこからかと思うけれど、そもそも不思議なことなんていくらでもあるのだからこの際無視だ。


「驚いたな……お嬢さんは、エクソシストだろ?」

「誰だ、お前……何か用でもあるの?」


 妹は渡さないけどと全身で物語ってみる。男はハハッと軽く笑いながら、ゆるゆると手を上げ始める。


「悪ィ、悪ィ、大丈夫だって。俺はソイツに用はない。用があるのは、」


 お嬢さんの方。口の端を両側いっぱいにあげて笑う男の行動は素早かった。私の体の中心部、内臓に向けていつの間にか周りを飛び回る、黒く見える蝶のようなものを差し向ける。
 ――なんだこれ!?
 頭の中を警報が鳴る。これはきっと、私にとっては危険以外の何物でもないものだ。ふれるか触れないかのところで紙一重といった感じでさけつつ、妹『たち』を突き飛ばす。彼女たちを逃がさなければと。


「逃げて――はやく!!」

「ノア、さま?」


 よろけながら妹の声を聞く。体制を立て直して、ばっと妹の方を見た。彼女たちはさっと立ち上がるとうやうやしく頭を垂れてみせ、尊敬しているものへ見せる笑みを浮かべていた。その行動をどう捕らえたらいいのか分からずたたらを踏んだ。妹の視線はどう見ても、襲撃者の方を向いていた。

 ――なぜ、この襲撃者をそんな目でみる? 私が、知らないこの男を。

 疑問と敵意でむせ返りそうになり、唇をかむ。彼は私の敵ではないのか……、――いや、否だろう。では『妹たち』にとっては?
 ふむ、と落ち着きなく心の中で一呼吸入れる。男の腕はその間も容赦なく私を狙うし、この慌ただしい状況を何とか出来ないものだろうか。


「聞くこともばかばかしいよーですが、お前は何物で味方か敵かどっちでしょーか」

「お嬢さんにとっては敵だろうな。それを知ってどうするつもりだ?」


 動きを停止させて、わざと男につかまりつつ。ずぶりと私の中で埋め込まれていく腕の感触が気持ちが悪いが、そんな私に男は笑みを深くする。今から私がとる行動は、一つだけだった。


 


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