3輪目

 

 何度か任務に連れられているうちに、リズは一人でも任務をこなせるようになっていた。リズのイノセンスは守りのイノセンス。教団から創って貰った、特別な盾と同化させたそれは少女の手には余るほどの大きさだ。
 しかしリズが盾を持ち運ぶのに不便を感じたことはない。大きくも小さくもなるイノセンスは、今では立派な彼女の旅のおともであった。
 エクソシストになってからの彼女の評判は上々で、悪いものは一つもない。『仲間』と連携とるし、愛想もいい。言われたことはきっちりとこなすし、エクソシストは当然のこと傷ついているファインダーだって率先して助けにいった。そんな彼女のことを教団内部の者が嫌うわけもない。


「リズ、そろそろご飯を食べに行かない?」

「そうだね。私もお腹がすいた」


 部屋をノックするなり、顔を出すリナリーに笑いかける。身なりを軽く整えながら、立ち上がると彼女たちは食堂に向かった。談笑しながら廊下をゆったりと歩くリズに、声をかけるものがあった。


「リズー! コムイがリズのこと探してたぜ」

「私を?」

「そ、リズを。資料とにらめっこしてたから、たぶんまた任務だと思うさ。おつかれさん」

「分かった、ありがとう」


 肩をすくめてリナリーに一言謝ってから、コムイのもとへと踵を返す。そんな彼女の背中をぞわり、とふいに冷気が走る。嫌な予感がした。だがそれもすぐにおさまったため、ぶるりと身震いをするに留めて振り返って何もないことを確かめると今度は小走り気味に向かう。
 部屋の前につくと、ノックを2回してコムイに合図を送る。「どうぞ」と返事があってから、「失礼します」と声をかけた。


「まあ、座ってよ」


 うながされるままにコムイの対面に座ると、ぐぅと腹が鳴った。


「あれ? もしかして、まだ食べてなかった? ごめんねー」

「……いえ、構いませんよ。それより何のご用ですか?」


 形だけはすまなさそうな顔で、コムイはメガネをくぃっとあげるしぐさをした。


「こんな時で悪いんだけど、任務だよリズちゃん」


 コムイが差し出してきた資料先には、リズの生まれた街から近からずも遠からずといった場所への地図が添付されていた。


「分かりました、……でもとりあえずご飯だけでも食べていーですか?」


 コムイはリズの問いに苦笑しながら「行っておいで」と頷いた。



―――*−*−*―――




 少し前、リズがエクソシストになったばかりのころ。


「どうして、ファインダーなんてやってたの?」


 ラビはリズに問うたことがある。それは珍しく若いエクソシストばかりが談話室に集まっていた時のこと。
 隅っこでの雑談の合間に、何気なく問われたものであった。リズはうーん、と困ったように笑って、


「家がね、代々教団に仕えていたから、かな?」


 とあいまいに首を傾げた。


「エクソシストこそいなかったけれど、大人たちは全員何らかの形で、教団の手伝いをしてんの。例えば研究室にいる、ガーベラさんだって私の親戚だよ」

「え? そうなの?」

「そうだよ。こないだラビが任務で一緒だった、アルジーだってそう」


 だから、私も頑張らないとだめ。小さくつぶやいた言葉は誰に届いただろう。


「じゃあ、リズが初のエクソシストってわけさね」

「うん」

「ファインダーとエクソシストって、どっちの方が大変?」

「もう! ラビってばしつこく聞きすぎよ」


 リナリーが軽くいさめるが、リズはそれを右手で制した。


「うーん……、どっちもどっちかな。でもエクソシストになったから、ミンナを守るために戦うよ」


 少女の声は決意に満ちていた。が、どこか空々しくもあった。


 


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