終わり
私を傷つけることが出来ず、かと言って覆うように展開されたドームに亀裂をあけることも出来ず。アレンくんはそれなりに苦戦しているようだ。私の方も刺された傷がジクジクと痛み、それなりにしか動けない。大人しく座って盾に寄りかかっていると、アレンくんはそっと心配そうな顔で私をみた。こんな状況でも私のことを気遣うことが出来るなんて余裕があるというかなんというか。
「ねえ? のんびり待ってようよ、たぶん時間がたてば私なんて傷のせいで意識が持っていかれるよー」
「だからこそですよ。早くしないとリズが、」
「……そうねー」
試行錯誤を繰り返すアレンくんだけど、無駄だと……!
「ちょっと待って何して、馬鹿か死ぬぞおまえ!」
「……姉妹ってのは助けあうんですって、お姉ちゃん」
「な……っ!」
短く悲鳴を上げたのは誰か。私はのこのこと戻ってきた妹に向けて叱責する。馬鹿が、何で戻ってきたのか。
私の動揺に合わせるようにぐにゃりと歪んだドームは、耐久力を失っていく。その機を逃すはずもなくアレンくんはあっさりと腕でそれを打ち破った。すかさず妹に向けてされる攻撃に、とっさにアレンくんの頭を盾で激しく殴打し気絶させる。崩れ落ちる体を傍目にみながら、私は妹の手を取ると行くあてもなくかけだした。
「馬鹿か君は、本当に、」
「お姉ちゃん、それはさっきも聞いたわ」
「……! なんで戻ってきたの? 私はそんなこと教えてないし、頼んでないよ」
もしもの時は私を刺して遠くに逃げて。そうすれば私は君の手で死ぬことが出来るし、君のために時間も稼いであげる。
だというのに、ちゃんと逃げてくれないと……、いいながら湿った咳がでてくる。走っている状態じゃないんだけど。思っていると妹は私のことをいとも簡単に横抱きにしてみせる、驚いたけどそーいえば彼女はアクマだったのだと思い出した。では、なんで戻ってきたのか。
「なんで戻ったのかなんて分からないけど、……お姉ちゃんを見捨てたらだめだと思ったから」
ふんわりと笑ってみせる彼女。私はそこで何もいえなくなった。
あれから日もすぎて。もう小一時間は洋服店の中にいるだろうか。うーん、だの、でもなあだのと言って小走りに移動する彼女についていた店員も、接客をやめて別の客のところへ移動してしまった。おしゃれ好きなのは前々からだけど、それにしても……。
「やっぱりこっちの方がいいかな?」
「君は可愛いから、薄いピンクの方が似合うと思うよ」
「そうかな? 変じゃない? 大丈夫?」
彼女はそういって、何度も姿見の前でくるくるとまわる。なにをきたって似合うというのに、いったいいつまでそうしているというのか。
何にせよ可愛いは正義だと切に感じている私は、十二分にシスコンをこじらせている自覚がある。ふっと笑ってみせると、妹は軽く表情に陰をやどらせた。
「後悔していない? お姉ちゃん」
「そーだねぇ。面倒なことは増えるかも」
やっぱり、と肩を分かりやすく落とす妹。馬鹿だな。
「そーいうところがみられるから、後悔なんてしてない。その体も魂も、失うことは嫌だから」
「……そうかも、ね」
そういって私に抱きついてくる彼女がアクマだなんて、誰がいうのだろう。可愛くて幼いままの、私の妹を。
倒れないように受け止めて、抱きしめ返す。願わくば幸せが続きますように。妹の髪の毛にはいつだったか私がプレゼントしたダリアがある。彼女が激しく動くためずれそうになるそれを、そっとなおして。
「そろそろいこうか。お腹がすいた」
「うん。ごめんねお姉ちゃん、私パスタが食べたいわ」
「何でもいいから食べにいこう。君の好きなものを」
店外にでるとまぶしい太陽が私たちを待っていた。手を頭の上にかざして日除けする。帽子くらい買った方がいいのかもしれない。
さっきの質問の答えは後悔していない、だけど逆に彼女はどうなのだろう。ふと気になって、
「君こそ怖い人たちが追ってくるんじゃないの?」
「どうかしら? それはお姉ちゃんも一緒でしょうに。でも私は人間を殺すように教えられてはいるけれど、人間と仲良くするなと習った覚えはないわ」
「そーねえ」
そうでしょう? と笑ってみせる彼女。今更だけど、彼女は少しいい性格をしているかもしれない。追われるのは困るけれど、こんな性格の妹と一緒ならちょっとは楽しくなるかもしれない。ひとまずは腹ごしらえを、と私は妹の手を取って歩きだした。
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