六光



 泥のように眠るとまではいかないものの、それなりには"快適"に眠れたのだろうか。神田は窓から降る光で目を覚ました。警戒はしていたが、この家の主が神田がいる部屋に近づいてくることは、初めの案内以来無かった
 体を起こすと、意図せずに勾と男の昨夜の会話が頭をよぎる。問い詰めることさえできない雰囲気の中でなされた会話は、不信感や猜疑心を誘うには十分なような気がした。もともと桜や神隠しについて調べに来たのだから、一発目から大元に当たるのは僥倖と言えるが。

 トントン、怯えたようなノックの音が響く。ドアを開く気配がないため「どうした」と先を促すと、自分たちは用事があるから、先に出ていくとのこと。神田が腕でも動かそうものなら、その気配を敏感に感じ取り、ヒッと悲鳴を上げながらの説明であったため、本当なのかどうか信用出来ようものでもなかったが。別にそこまで過敏にならずとも、神田とてとって喰おうとまでは考えていない。


「……はやくこんな場所、出ていった方が良い。特に部外者は」



 ぼそりと聞えるか聞えないか程度の声で、言葉を残したのを最後に男が去った気配がした。怯えながらも、最初に戻ったような話し方はしっかりとしていた。こちらとしては聞きたいことがいろいろとあったのだが、……仕方がないと割り切る他なかった。
 勝手に降りていくのもどうかと思ったが、いつまでもここでじっとしているというのも神田の性に合わない。身支度をさっと整えると、時間をかけずに外へとでる。昨晩とは違って、周りが明るいためか多少違う景色と、今の景色の記憶合わせをしながら桜の気を目指す。

 相変わらず不思議な空気を放つ桜は、思ったよりも簡単に見つかった。

 桜に寄りかかり、立っている少女とともに。探す手間が省けたというか、何というか。そういえばあの時神田は、有力な手掛かりをあっさりと逃がそうとしていたのかと思いいたる。どうしてそれを考えていなかったのか、不可解ではある。が、問題の少女もみつかったことだし、今は一旦考えることをやめた。――最近、これと同じような思考ばかり続けている気もするが。


「あら、神田さんじゃないですか。昨日の疲れはとれました?」

「今日は逃げないんだな」

「そうですねえ……、幸い、神田さんは"悪い"ものではなさそうなので」

「どういう意味だ?」

「少なくとも、あれ等とは違うという意味でしょうか」


 勾はそう言うと、表情を崩さずに姿勢を低くし、腰に下げた刀をすらりと抜いた。神田が勾の視線を追うと、そこには当たり前とばかりにこちらへと向かってくるアクマの姿。


「おちおち神田さんと話してもいることもできませんね」

「アクマかっ、あぶねえから下がってろ!」

「困りました。……それは聞けないお願いです」


 化生のものを倒すのが、私の仕事ですので。



 


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