二夜光

「どうして俺が」

「文句を言わないで下さいな、神田さん。教団に残っているのが私と神田さんの2人だけだったのですから、仕方がないではありませんか」

 半眼ぎみに神田のことを見ると、勾は走る速度を上げた。それに仏頂面の神田と、2人についていくことになったファインダーが続く。イノセンスをみつけたが、その場がアクマに勘づかれそうだから助けてくれ(意訳)との要請。勾は任務の詳細をほぼ聞き流していたが、神田とファインダーがどうにかするだろうと思っている。走っているうちに勾はたった今思いついたとでも言う風に口を開く。


「それで、私たちはどこに向かって走っているのでしたっけ?」

「汽車だろバカが!」

「ああ……そう言えば、そうでしたっけ」


 教団での彼女の態度、口調は柔らかくなりつつあると誰かが言っていた。神田は勾のそれらは軟化したというより、もとよりとぼけていた態度だったのが加速してただの馬鹿になってしまったのだろうと思っている。しかし勾と他のファインダーやら、エクソシストやらが話しているのを何度もみたことがあるが、神田以外に彼女がボケた言葉を吐いている姿をみたことは無く。そういう場でまともに話すことが出来るのだと知っているだけに、何故神田にだけはふざけた様子なのかと勾と話していると苛々が加速する。


「神田さん、もしかしてなんですけれど。私たちが乗る予定の汽車というのは」

「あれだな。飛び乗るぞ!」


 目前に迫りくる丘を、各人はそれぞれに力強くけって飛び降りる。都合よく足元を通り過ぎようとする汽車の上に飛び乗るまでの間、刹那ばかりの浮遊感が3人をおそう。汽車の内部の手配については、ファインダーに任せ、神田と勾は空席に腰をおろした。


「私が汽車に乗ったのは、神田さんに連れられて教団に向かう時だったのですが。神田さんのおかげで、しばらくの間汽車には飛び乗るものだとばかり思っておりました」

「仮にそうだったとしたら、老人が利用できるわけがないだろうが。女だってあんなひらひらした服でどうやって走るんだよ」

「確かにそうです。ですが神田さんからそれを指摘されるとは、私も落ちぶれたような気がいたします」

「どういう意味だ……」

「いいえ、別に深い意味などありはしません」


 神田は勾に目をむける。勾は汽車の窓から外の景色を眺めているようだが、特に楽しいと感じているわけではなさそうだ。勾が視線を感じて怪訝そうに神田の方を見やる。


「いかがいたしましたか? もしかして、まだ私が神田さんと任務にあたることを気にしていらっしゃるのでしょうか?」

「いや……それはもういい」

「そうでしたか」


 先が続かずに沈黙が落ちる。神田はふっと勾に違和を感じた。それが何かを問おうとする前に勾が胡乱げな眼差しを送りながら、神田に呼びかけた。


「何だ」

「いえ……そういえば、常々から考えていたのですが」


 ――神田さんも、皆さんもよくこんな団体の中で生活が出来ていますよね。
 突然何だというのだ、こいつは。突飛な話に神田が何も答えないでいると、


「神田さんもよく黙って、あんな団体に従っていらっしゃるものだと……。真っ先に逆らって刃向かいそうなのが神田さんですのに」

「さあな、少なくともお前が言っていいことじゃねえだろ」

「それもそうですね」


 今日の勾は笑わない。神田に繕ってみせても意味が無いと思っているのか、たまたまなのか。苦笑さえみせるのはまれだ。とはいっても、神田は勾と四六時中一緒にいるわけでもないし、あの村で会う以前の彼女も普段の彼女も深くは知りもしない。意外と勾はいつも、今のような雰囲気でいるのかもしれない。


「でも、やはり、気になってしまいます。こういうのを下種の勘ぐりとでもいうのでしょうか、最近習いましたよ」

「変なことを覚えてくるな。誰だそんなことをピンポイントに擦り込んでくるやつは」

「大きい方のブックマンさんです」

「……あいつか!」


 


[ 19/20 ]

[*←] [→#]
[戻る]

[top]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -