一夜光


 教団とはどのような場所なのか。事前知識も無いままに、連れてこられたところだが、はたして私はここで何をすればいいのか。あの村での私の『仕事』が化生――神田さんによると、アクマと呼ぶらしいものを退治することだとすれば、今の神田さんは私をここまで引っ張ってくることが仕事。神田さんを振り切って逃げてしまえば、きっと彼が困ってしまうのだろう。
 私のしてきたことを思えば、これからの処遇など想像に難くない。ここへ来るまでの間、神田さんから全てを聞いたわけではない。けれども彼は私の拙い頭で考えた疑問に、嫌そうな顔をしながらも答えを返してくれた。その中から私の持っている知識との点と点を繋げていくと、どうやら人類における『正義の味方』とも言える立ち位置にあるのが、この教団であるらしい。すると、どうだろう。私のやってきたことは、むしろ正反対にあたる。


「おそらく目的は、私が持っている刀の回収と、"邪魔者"の排除」

「――それは今後の君次第だ」


 振り向けば、見知らぬ男の姿。私はいつもの通りに、微苦笑を浮かべてみせる。


「聞かれてしまいましたか? 聞き逃して下さるのならば、とても嬉しかったのですが。……私次第、と申されました?」

「ああ、そうだ。とりあえず、君には幾分か知識が不足しているようだ。ついてきなさい」


 素直についていくほど出来た人間ではない私は、立ち止まったまま何もしない。いきなり出てきておいて何だというのだ。私が言えた義理ではないが、相当の不審者にみえる。ならない足音を不審に思ったのか、男が振り向いた。怪訝そうに私のことを見て、「何をしている」のかを質問される。いきなり殺されるよりましなのだろうが、ついていく以外の選択肢はないらしい。私は諦めて従うことにした。


―――*−*−*―――



 教団に来てから、一週間だろうか。過ぎていく時間の感覚は、はやいような遅いような。朝、目覚めて『自室』の扉を開けば、誰か人が居るだなんて暮らしをしていたのはいつ以来だろう。私は静かにのびをすると、『教団』から言われたことを反芻する。簡潔にまとめると、血液により受け継がれていく刀(イノセンス)が珍しいから利用させてくれといったところだろうか。正確なところは分からないが、私が祖父から聞いて覚えている範囲の中では、私の親族家族以外にこの刀を扱える者はいなかったとのことだった気がする。加えて刀(イノセンス)を扱う者が弱ってくると、自然と次代の桜に魅入られる者が現れていたようだ。いったいいつから受け継がれていた物なのかは私は知らない。
 呼ばれて話しを受けるにあたって、神田さんに質問した事項以外にも聞いてもいないこともぺらぺらと聞かされたりもした。適合者に関することもそのうちの一つで、私とこの刀について調べることでイノセンスとの適合性に関する謎も解決するかもしれないといわれたがおそらくは無理だろう。

 ――脅されて嫌々してきたことは、"仕方のない"ことだ。

 ――嫌々、ですか?

 ――そう。咎落ちしなかったのは、君が神に守られていたからだ。だから君はこれからは神に仕える者になればいい。恩を身をもって返していけばいい。

 ――咎落ちしなかった訳は私には理解出来かねます。ですが、貴方がたが言うことは間違いだらけです。私は……。

 ――君は。"無理矢理、全てのことをやらされていて、細かいことは何も知らなかった"。そうだね?

 否とは言えない。是と言うまで繰り返される問答に、私は黙ることを選択した。私がしてきたことを懺悔しようと思うほど、罪悪感を抱くことは出来ない。あの村の人間が嫌な奴らだったのには変わりはなく、だから外の人間は嫌いだ。かといって私がしたことも善行と呼ぶには程遠く許される類いのものではない。。殺されるならばそれも受け入れるつもりでいたが、ある意味予想外な展開だ。しかし考えてもみたが、私を罰することが目的ならばあの桜の木の下で殺せと命じるだけで良かった。それをわざわざここまで連れて来るということは、よっぽど適合者とやらが少なく困っているのか。もしくは血族で継がれていくイノセンスを調べるのに、私のような立場の者だと都合がいいのか。

 果たして、教団が行っているのは善行なのか。


「私に判断することは出来そうにありません」


 


[ 18/20 ]

[*←] [→#]
[戻る]

[top]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -