十二光




 更に月日がたって、数年後。限りなく現在の年齢に近づいたころ。アクマが全てを喰らっていった。



―――*−*−*―――

 


「私は何か刀を向けられるようなことをしたでしょうか……神田さん」


 そう、とぼけて薄い笑いを張り付けた先に居たのは、神田ひとりだった。勾は軽く周囲を確認し、神田の他にはどうにも人が居ないようだ、と首を傾げた。
 ――おかしいです。確かに誰かが話す声が聞こえたのですが。
 どういうことだと勾が考えている内に、彼女に対する神田の態度が軟化して、手元の刀は下ろされた。もしや今まで勾が感じていた不安は、全て杞憂だったのかもしれない。早合点をしてしまったのか、いや、しかし。ぐるぐると回る思考について行きながら「私が、何か気に触るようなことをしてしまったのでしょうか?」と、とぼけた声で抗議する。肩の力を抜いた彼の答えは「いきなり気配を消して出て来るな」とのことだった。


「では、私は敵味方に構わず、分かりやすく潔い登場の仕方を心得た方が良かったのでしょう。気をつけます、すみません」

「分かっててやってんだろ、お前」

「その質問は理解しかねますが、私が何を分かってるというのですか?」


 眉間にしわを刻んだ神田が何かを言おうと口を開きかけ、やがて諦めて閉口した。神田は学んだ。余計な着火材料は与えないに限る。
 素直に謝る体裁だけを繕って、その実込められたものは『えー、そんなあ! 敵が居るかもしれないのに、分かりやすく登場してあげるべきだったんですかあ? ぷっ』という皮肉だけである。なんとも言い難い。その様子に神田は、一瞬どこかの白髪のことを思い出し、同じにおいを感じた。上がらない気分をそのままに、ふざけた雰囲気を己の中で正す。そしてこの短期間で、こうもアクマが密集しているのはおかしいと神田の経験則で考える。


「それはそうと、神田さん。他に誰かと話しをされていましたか?」

「……ああ?」

「いえ、変なことを聞いてしまいました。気のせいだったのなら構いません」


 何を言ってんだこいつ、とでも言いたげに勾のことを見る神田。唐突な言葉は彼のことを再び混乱させるには十分だった。


「何度もすみませんでした。……それよりも、一旦村に戻りませんか?」


 困ったように謝る勾。気が付けば太陽が真上を通っており、ここでぼうっと過ごしていることは神田にとって得策には思えなかった。じっと機をうかがっているよりも、体を動かしていた方が彼の性にあっている。断る理由もなく、無言で勾に向けて肯定すれば、神田を村の方へと促した。



 ――はやく、確認を取らなければ。契約はいつだって無効にはならないのだから。



 


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