01



 警備企画課の執務室で作業にあたる。モニタには、当課の人員が調べた情報がまとめて映し出されている。
 これまで同僚同士の情報共有は、機密保持の観点から紙か互いの記憶のみで行われてきた。だが情報化社会が進む現代において、より多くの情報をより正確かつ迅速に更新しつづけるためには情報のデータ化が避けられなかった。
 我々が独自に入手した情報は最高機密にも成り得る。そのため、堅牢なファイアウォールと幾重ものセキュリティシステムによって守られた、警察庁内の一部のネットワークでのみ管理されるようになっていた。
 このシステムには二段階式のロックがかけられている。生体認証とパスコードの両方を用いなければロックを解除できない。加えて警備企画課の人員は名前が公にされないため、仮にこのシステムの存在を知ることができたとしてもシステムから情報を抜き取ることは実質不可能だ。
 その進入不可能なはずのシステムに、外部からアクセスされた形跡を見つけた。
 モニタを睨みつけてしばらく考え込むものの、私は溜息を吐いてイスにもたれかかった。進入の痕跡は巧妙に隠されていた。見つけたのは単なる偶然で、私の能力では辿ることができない。早期発見できたのは幸いだが、見つかれば見つかったで頭が痛い問題だった。
 どうしよう……そんな仕方のない不安が呻き声に変わる。
 ここで下手に相手のことを探って、警備企画課の人間が勘付いたと相手に知らせてしまえば逃げられる可能性がある。そうなると、どの情報がどこまで漏れたかが迷宮入りだ。
 警備企画課は公安刑事の指導的立場にある存在だが、個々の自己解決能力を求める当課の性質のせいか今すぐにでも対策を打ちたいと考えてしまう。だが追跡はエンジニアに任せるべきだ。冷静になって判断を下す。
 全身の筋肉が強張っている。一手間違えれば終わりだ。国家の安全を守ることを使命とする私たちに失敗は許されない。冷や汗がこめかみを伝ったときスマートフォンが振動した。驚きから肩を跳ねさせていると振動はすぐ止まる。
 ちょうどこのあと協力者と会う予定になっている。彼に協力を仰ぐことにしよう。
 そうと決まれば話は早いと、デスクを片付けてコートを手に取った。スマートフォンに浮き上がった九桁の数字二列を地図で探しながら庁舎を出る。
 ショートメールの末尾には「Δ」の文字が添えてあった。


 到着したのは岬だった。車を降りて辺りを見回すが人の影はない。
 今日は風が強く、外出には適さない天候だ。偶然ここを通りすがる人がいても会話の内容が聞かれる心配は不要だろう。まさに密談にはおあつらえ向きだった。
 人が来ればすぐにわかる。私は備え付けられた柵に身を預けてぼうっと海を眺めた。こうしてのんびりと海を眺めるなんてことはもう何年もしていない。まだ三十になったばかりだというのに、随分と遊びのない人生を歩んでいるものだ。
 そんなことを考えて暇を潰していれば背後で車が走る音がした。振り返ると白い国産車がゆっくりとエンジンを止めた。
 車から姿を現し、こちらに向かって歩いてくる男は亡霊だ。その金髪は太陽の光を吸い込んできらめき、瞳は眼下に広がる海を映したかのような青をしている。服の裾が風にはためいているのさえ様になっている。
 これほどまでに圧倒的な存在感を見せ付けているくせに、その気になれば瞬きする間に行方をくらませることができるのだから、まさに逃げ水のような男だ。
「……降谷、」
 隣に並んだ男の名をおもむろに口にすると骨ばった指が私の唇に伸びてきた。むに、と食い込ませる奇行に対して怪訝な表情を返せば降谷は意味深に笑う。
「その男は死んだ」
 離れていく指を見ながら、私は深い溜息を吐かずにはいられなかった。
「記録は?」
「すべて抹消された。降谷──彼≠ェ警察庁に所属したことも、使用した偽名も、残っていた文書も……可能なものはすべて」
「そうか。助かった」
 素直に降谷の名を伏せれば、目の前の男は穏やかな表情を作る。
 黒田管理官から突然の呼び出しを受けた私は、大まかな事情を説明されただけの状態で指示を飛ばされるままに降谷についてのあらゆる情報を消しにかかった。おかげで日付をゆうに回った時間帯に帰宅する羽目になったのだから、そんな突拍子もないことを管理官へ提言したこの男に対して苦情の一つくらい言っても許される。
 それでも感情は脇に置いて先に報告をしてしまうのは職業病のようなものだろう。じっとりと恨みがましい視線を向けていれば彼は困ったように頬を掻いた。
 悪いことをしたという自覚はあるらしい。今度スイーツでも奢るよと言われる。情報を扱う人間だ、たしかな場所へ連れて行ってくれることだろう。期待を言葉に乗せて返せば彼の顔に浮かんでいた申し訳なさは途端に消えた。
「風見にはなんて言ったんだ?」
「貴方を失ったことと、葬儀は挙げないこと。存在したことすら否定するみたいにすべての情報を抹消したのは、事前に本人と上が合意していたからだということ」
「納得しなかっただろう」
 彼は、まさか部下が上司を失ったことに心を痛めて泣いたなんて思いもしないような顔をして言った。
 かつての部下を信頼しているのか、それとも自分は惜しまれる存在でないと思えるほど部下との間にある絆を淡白に捉えていたのか。
 風見くんが可哀想に思えて彼に真実を伝えるのはやめにした。風見くんが彼の死を悼んだことなどこの薄情な男に伝えていいものか。風見くんは彼の死を偽装されているのだ、その片棒を担いでいるのは他ならない私だが多少の報復はあっていい。
「ふらっと現れてはふらっと消える掴みどころのない上司の殉職なんて、何か大きな事件か隠蔽工作だと思ってもおかしくないんじゃない」
 真実を捻じ曲げて伝えれば、彼は私を疑う様子もなく頷く。
「でも納得させた。どうやって風見の心を掴んだんだ?」
「貴方を取り戻すつもりだ、とだけ」
「なるほど、葬儀を挙げられない理由にも、葬儀を挙げないことへ君が同意した理由にも通じながら、風見の心を揺らす一言だ……。他人の心に入るのが上手いな」
「……馬鹿にしてる?」
「褒めてるよ。多くを語らず聞き手に解釈を委ねる、そんな含みのある話し方は君から学んだから。度が過ぎれば鼻につくし心を揺さぶりたいときだけ使っているけどね」
 遠い目をして話す彼の横顔は、私以外の存在を見ているようだった。
 どんな場所にも潜り込み即座に馴染んでしまう技は独自で編み出したのではなく、周囲の人間から学んだとでも言うのだろうか。入庁当時から圧倒的な優秀さを見せ付けてきた彼の、想像もしなかったルーツを目にした気がして意外に思う。
 いいや、だけど他者のキャラクターを我がものにできるスキルは一朝一夕では手に入らない。やはりおそろしい男だ。
「それで? こんな辺鄙なところまで呼び出したわけを聞かせてくれるのよね──Δ」
 デルタ、と呼ばれた彼はにっこりと笑う。さきほどの私のように柵へ体を預けて海を眺める彼を見ていれば、彼の穏やかな表情が真剣なものへと変わった。
「ゼウスという会社がある。マイクロチップの開発と製造を行う小さな会社だ。AIを使ったロボット研究を手がけることで有名な企業の傘下なんだが……知ってるか?」
「ゼウス? さあ……聞いたことない。マイクロチップってICカードの情報を登録して肌に埋め込んでおくメモリーでしょ。日本ではあまり導入されてないと思うけど」
「ああ、他国でもさほど重宝されていない……紛失しない記録媒体、鍵を一つにまとめておける優れ物、程度の利便性だからな。容量や軽量化、安全性の問題をクリアすれば爆発的に広まるだろうが……」
 トントン、と彼は手の甲を指先で叩いた。そこに埋める人が多いという意味だろう。
「その会社がどうかした?」
「少し気になることがあるんだ……奴らの動向に目を光らせておいてほしい。日本に介入しようとする動きがあれば何か≠るかもしれないと厳重な検査を敷いてくれ。それだけで構わない」
「何か隠してる」
「気のせいだ」
「嘘ね。AI企業の傘下にあると言ってた……マイクロチップの輸入を利用したテロを懸念してるの? いや……ウイルスソフトを混入するにはマイクロチップじゃ容量が足りなさ過ぎる。密輸品の目くらましとか?」
 懸念を当ててみせようとする私を降谷は止めない。反応から探り出そうとして降谷の表情を盗み見れば、魅力的な視線を向けているバーボン≠フ姿があった。
「情報はこちらの世界では商品の一つだ。それなりの金額をもらわなければいけないところを無償でやってる……理解してもらわないと困るな」
「やめて、そうやって犯罪者ぶるのは」
「……」
 話に聞いたことがあるのみだったバーボンの姿を初めて目にして、率直に感じたのは苛立ちだった。こちらを丸め込もうとする態度は実に不愉快だった。
 降谷は警備企画課を辞めた。
 彼にとって人生の大きな転換点、巨大な犯罪組織への潜入捜査は彼に偉業を残した。歴代の公安刑事ですら経験しなかった壮大な任務につき、それを組織壊滅という達成の形で終了させたからだ。
 降谷が警備企画課を辞めたのは、ネズミを追うような後始末を済ませて次の任務へと移ることになる、その矢先のことだった。
 降谷の潜入捜査で公安はある事実を見出した。犯罪組織に潜入した降谷が他の警察より多くの成果を上げたことと、それらを降谷が完璧に隠蔽できたことだ。
 我々公安は特殊な立場と法の穴を突いた戦略によって、明るみに出ない限りは合法だと押し切れる手段で捜査を行う。もちろん必要最低限に留めるよう努力するが、法を破ることもあるからこそ、個々人に高い能力が求められた。
 自ら行なった違法な作業は自らかたをつける。公安はだれもがこの言葉を胸に捜査にあたっている。清廉潔白な捜査だけでは国を守ることはできないが、誇りを失っては正義にならないからだ。
 その誇りを失う、つまりは悪に落ちながら正しく公安の定めるところの正義を執行するのは難しい。ただでさえ善悪の境界は曖昧で、大義名分と権力が与えられた個人にその判断が委ねられるとなれば、道を外してしまう者がいるのも自明の理である。
 だからこそ公安は犯罪者を協力者にしない。そして罪を犯すことに毒された捜査官には必ず監査が入る。そもそも、強い正義感を持つ人間のみが潜入捜査の適正を見出されるためそういった事態を招くケースも希少だが。
 つまり捜査官が情報収集のためだけに完全に存在を消されたことはこれまでなかった。それが、この男にだけは通ってしまった。降谷零は悪の中に放っても公安にとっての正義を見失わない。当人がそれを上に証明し、納得させてしまったのだ。
 それがいかに壮絶な道であるか、私には推し量ることもできない。だが降谷ならばこれまでのように正義の側で悪を断ち続けることもできたはずだと信じていた。だからこそ、彼自らが悪の道を選んだことに関して降谷を嫌悪している。尊敬していたからこそ、失望した。
 私の言い方があまりにも刺々しかったのだろう。降谷は肩を竦めて、勘弁して欲しいとでも言うように口を割る。
「裏が取れていないんだ。無名の犯罪者ほど情報が少なくて集まりづらい……。どうやら彼らも慎重に行動しているようだ、君たちの影がちらつけば絶対に姿を見せないだろう。だから僕が情報を集めてくる、そのための協力者≠セ……」
 協力者。公安刑事の捜査に欠かせない存在を引き合いに出した降谷を横目に眺める。
 警察との接触を完全に断つべきだとの話も出た──管理官の言葉が脳裏に蘇る。降谷が裏社会に身を置く以上、たとえ公安のためであろうとも警察の威信を失墜させる可能性となる。そういった汚点は消し去っておくべきだと。
 その言葉を耳にした途端、私は弾かれたように反論した。彼をただの犯罪者にしてはならないと、彼の最後の矜持まで奪ってはならないと本能が叫んでいたのだ。協力者として名を残すようにしてほしい、私は管理官に懇願した。
 必死な私を差し置いて「当然だ、あいつと言えども手綱は握っておく」と言って渡された新品の携帯、その中に唯一登録されたのがΔの文字だった。
 頭では理解していたつもりでも、私は彼が協力者になったという事実を受け入れられない。彼の口から自らを協力者と呼ぶ言葉を聞いてその思いは強まった。ゼロ≠ニいう私たちの別称は、彼にこそ相応しいものだったというのに。
「降谷が残ればよかったのに」
 気づけば思わずそんなことを口にしていた。目を瞬く降谷は私の言いたいことを理解できていない様子だ。勘がいいくせに、こういうとき彼は鈍くなる。もどかしさを覚えて、まるで後悔して欲しいとでも言うように本音を零していく。
「手を汚すのは私にだってできる。でも上に立って大局を見るのはだれにでもできることじゃない。ましてや発芽してもいない犯罪に気づくなんて芸当はだれにも──……だから……だから降谷が、残るべきだった」
「僕たちには役割がある。僕の代わりはだれにも務まらない……君の代わりもだ」
 駄々を捏ねる子どもを諭すような声音だった。それは彼が悪に身を落とすことも必然だったというようにも、上に立つ降谷零は過去にも未来にも存在しなかったのだから無意味なことを考えるなというようにも聞こえた。
 自らが優秀であることを自覚しながら、彼は確実に悪を根絶やしにする方法を選ぶ。高すぎる理想は私たちには到底理解できないものだ。気高さゆえにその身を落とすなど、正気では行えない。
「降谷と一緒にいると息が詰まりそう」
 降谷をなじってどうにかなるわけではない。それでも堪え切れずに言葉が漏れた。
「私たちとは見ているものが違いすぎるのに、私たちにも同じものを見せようとする。私たちのやり方では不十分だというくせに、私たちから本気で離れようとはしない。そんな降谷を理解できないのに、理解したいと思う……」
 降谷が私を遮ることはない。そのせいで、心は留まることを知らない。
「降谷に能力が劣ることを恥じる気持ちも、出し抜いてやろうという気持ちもあるのに、降谷がいないことへの不安が拭えない。……ねえ、私たちは降谷なしじゃとてもやっていけないよ……」
 尊敬していた。憧れていた。先輩として、成長しつづける後輩に負けたくなかった。だから私と違う人間になってほしくなどなかったのに。手にした平和を共有しようとするのなら、どこまででも同じところへ連れて行ってくれればよかったのに。
 理不尽な願いだ。こちら側へ留まっているべきだったと思うくせに、いざそれが叶わないとなればどうして一緒に連れて行ってくれないのかと不満を抱く。いまさら彼と肩を並べる資格がなかった事実を突きつけられて腹を立てている。
 こんなときに泣けるほどかわいい女じゃない。降谷をギッと睨んでいれば、目を丸くして私の矛盾に耳を傾けていた降谷の顔はゆるゆるとどうにもしまりのない顔に変化していった。
 どうしてそんな顔になるんだ、そんな顔に。不満から眉を吊り上げれば「あー…うん、君は本当に人の心に入るのが上手いな……」と言われる。
 やはり馬鹿にしてるんじゃないか。そう怒りをぶつけてやろうとすれば唇にやわらかいものが触れた。視界いっぱいに見慣れた同僚の顔が広がっている。近くで見るとバランスが整っていることを実感させられる。合わさった唇は、風に晒されていたせいか少しだけかさついていた。
 たっぷり数秒、惜しむように数度、食むような動作で私の唇を楽しんだ降谷が、ショックを受けたような顔をして遠ざかっていった。
「目を閉じてくれたっていいだろう……」
 なんてことないようにキスをしたのはあちらなのに、まるで私が彼をすげなく扱ったかのような言い方だ。だけど私はそれにすら反応できなくてぽかんと降谷を見上げていた。
「まさか、本当に気づいてなかったのか?」
「な、なにに」
「僕が君のことをずっと好きだった、ってことにだよ」
 まさかそんなことあるわけないだろう!
 笑い飛ばすことも、信じられないと叫ぶこともできず、ひたすら口の開閉を繰り返す。結構わかりやすかったと思っていたんだが、という降谷の呆れも右から左へ流れていった。
「好きな人には好きな道を歩いてもらいたいだろ。正義を貫くことに君はこだわっていた」
 私が何も言わないからか、降谷はさきほど零した私の不満を拾い上げて返事をする。
「正直なところ、君の潔癖は僕の執着を凌ぐとさえ感じたよ……。でも僕は、真っ直ぐすぎて融通が利かない君が好きだった。だから君をこちら側へ連れてくるなんて、ましてや代わりに法を破らせるなんてできない。さっきは嫌そうな顔をされたけど……僕は、君が僕を協力者にすると言ってくれたと聞いて嬉しかった」
「……私が提案しなくても、もう名指ししてたじゃない。管理官に聞いた」
「まあ、そうだけどね」
 ずっと柵に体を預けていたからか、降谷はぐっと背伸びをして体を反転させる。言うべきことは言った、と態度が告げている。
 降谷の表情は到着したときよりも晴れやかだった。今日ここへ呼ばれた本当の目的は、ゼウスの話をするためではなく心残りを消すためだったかのようだ。この会話が終了すれば、次の瞬間からでも降谷は闇に生きる人間となる……そんな気がした。
「教えて……そうまでする必要があったの?」
 今にも歩き出そうとする降谷に問いかける。降谷から聞かされた答えでは到底納得できなかった。はぐらかすつもりがあったのかはわからないが、私のことが好きだから闇に触れさせたくなかったことと、降谷がこうまでしなければならなかったことには何も関係がない。降谷が闇に生きる理由までは聞かされていないのだ。
「国を守りたい気持ちは君と同じだ。僕自身のことも考えて、こうする必要があった」
「降谷自身のことって?」
 さらなる問いに彼は答えなかった。とうとう歩き出して車に向かう。白い国産車が彼を乗せるための合図を受け取った。その電子音に答えを込めたのかはわからない。
 服の裾を掴むことはできなかった。追いかければその手を取れるはずなのに、それでも彼を引き止めることができなかったのは、彼が止まらないことを理解しているからだ。
 せめて彼がいなくなるまでに何か納得できることを聞きださなければと頭を回す。協力者に私を選ぶ理由は一体、そんな疑問が浮かんだときには口を次いで出ていた。
「私との接触を断たなかったのは……私を選んだのは、私のことが好きだから?!」
 なんてくだらない質問だろうと口にしてから考えた。聞くべきはそんなことじゃない。だけど、同僚としての姿は降谷によってすべて剥ぎ取られたも同然だった。一番知りたい答えは、咄嗟に出てしまったものしか残されていなかったのだ。
 私の問いに彼の歩みが止まる。まるで私が告白したかのような緊張と動機に襲われながら彼の反応を待つ。振り返った彼がふっと笑った。
「それもあるけどすべてじゃない。好きだから、ずっと見ていた。だから君が国を売る人間じゃないことを知ってる……僕を繋ぎ止めるのは君以外にいなかった……」
 風にさらわれそうになる声を必死に拾って、かみ砕いている間に降谷の姿が車内に消える。私がどうしようもない感情に襲われているのを満足げな顔をして眺めていた降谷は静かに車のエンジンをかけた。

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