また少し日が過ぎた。
言うまでもなく、優の症状は悪化している。
真弘は、何も気付かず珠紀と笑っていた。
普段と何も変わらずに過ごす彼女に時折祐一が心配そうな視線を向けたが、それ以外は本当に何も変わらない。
いつも通り笑い、いつも通り話し、言われた通り結界を確認しに行った。
幸いなことにロゴスと出会うこともなく、つまり戦闘をしないで済んだ。

霊力を高める修行だけは毎日欠かしたことは無い。
元に何も持っていない優は、死にもの狂いで、血を吐くほど努力して、そうしてやっと力を得たのだからそれをみすみす捨てるはずもなかった。
だが、しかし。日に日に悪化する症状を抑え込み、普段と同じ生活をするというのは、同じく花吐き病を経験した者からすればそれはもう魂消たことであり、事実命を削るようなものだ。
それはつまり、花吐き病の悪化していく短いサイクルをさらに短くしているということだった。

暗い家に一人きりで、優は仰向けに寝転がった。
――今日も、乗り越えられた。
もう、耐えられなかった。しあわせそうに真弘と珠紀と拓磨が笑っていて、それを見て笑う慎二と祐一がいて、優も同じように笑っていて――。
笑っているはずがない。いや、笑ってはいる。そうでなければ既にバレている。
最後に、心から笑ったのはいつだったろうか。
おそらく1週間前後だろう。けれどその1週間も、優には限りなく昔のことに感じられた。

夜に出る発作に悩まされ、ずっとまともな睡眠を取っていなかった。食事も1日1食すら危うい。
優は明日が土曜であることを確認して、殆ど気絶と変わらない眠りに落ちた。


「――っげほっ、ぅ、っおぇっ、…ぐ、ぅ、うぁあーーー」

朝日が射す時刻。しかし分厚い雲のせいか光はない。
花が散らばる部屋に、またほとりと新しいそれが落ちる。
間延びしたような、しかし苦しげな声を出して、上がった息を整えながら優は体を丸めた。身を守るように、ぎゅっと身を縮める。

「う、うぅーー…っ」

辛くて、苦しくて、悲しくて、やりきれなくて、どうしたらいいのかわからなくて。
どうしてこんなに私は弱いのだろうと、そればかりが優の中を荒らす。
こんな病に罹っても諦められなくて、想っているだけなのにこんな病気に罹ってしまった。
ただ、想っているだけなのに、優の命は削れ削れて、最早幾許もない。食事をほとんど取らず、取ったものも花と共に吐き出すことが多いせいだった。やっと休日を迎えて気が抜けた優は、化粧では誤魔化せないほどに憔悴し、衰えを見せていた。

(どうして…なんで?なんで私なの…?)

転げ落ちるように気分が下がっている自覚はあった。あったけれど、どうにもならなかった。
頑張ったのだ。この5日間、発作を隠し、化粧を施し、いつも通り笑い、語り合って見せた。

――もう、無理だよ。疲れた…。

呟いた声は暗い部屋に存外大きく響いた。
花吐き病に罹ってから今まで弱音を1度も口にしなかったのは、自分でも分かっていたからなのだろうか。
疲れ切ったその声は、何よりも雄弁に優の心が圧し折れたことを物語っていた。

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