02 ボスに抱かれた後のユウリは、たとえるなら親に置いていかれた小さな子どもだ。なくした体温を求めるように、必死に縋りついてくる。 「ドッピオ、キスして…」 「ん」 ベッドの上で、二人、抱きしめ合いながら、あそぶように口づける。 ユウリの髪から、微かに香るムスク。これはユウリの香りではない。ドッピオは鼻をひくつかせ、そんなことを思った。 ユウリの香水はもっとあっさりしていて、花のような儚い匂いだ。 これはボスの残り香なのだ。行為の最中、ドッピオは悟る。匂いが移るほど激しく彼の人に抱かれたのだ。行為の凄惨さは、ユウリの首にくっきりと残った手形を見れば、容易に想像ができる。 今日はその他に目立った外傷は見当たらないが、やはり手酷く扱われたようで、彼の精子の残る腔内を愛撫すると、指に少量の血がついた。 内壁をこすると、ユウリは眉をひそめ、痛い、と言った。入り口の部分も、少し裂けているらしく、そこにふれるとユウリはひどく痛がった。それでも行為を止めようとすると、彼女は余計に首を横にふるのだった。 「抱いて、ドッピオ…。痛くても、いいの。痛くして、いいから…」 ドッピオを見上げ、目を潤ませるユウリ。組み敷いているのはこちらの方なのに、ドッピオはなぜだか、犯されているような気分になった。 自身に覆いかぶさるドッピオの股下に手をすべりこませ、ユウリは、未熟な白い尻にふれる。ふるりと強張る割れ目に指を差し入れ、すぼまった小さな穴を探り当てる。 「や…」 身を捩り、ユウリの指から逃れようとする。しかしそれはポーズでしかない。ユウリの、後方への愛撫にはもはや慣れつつあった。けれど疑問は消えない。ユウリはどうして自分のこんな部分を責めようとするのだろう。 「ドッピオ、…ドッピオ…」 つぷ、と音を立てて、ドッピオの穴が、ユウリの細い指先を飲み込んでいく。同時に彼女は泣き出し、「ドッピオ…ッ」小さくふるえる唇を押し当てた。 歯列をなぞり、舌と舌とを絡め合う。狭いドッピオの口内は、先ほどまで、自分を痛く苦しく悲しく切なく掻き抱いていたあの男と同じ味がした。 (ディアボロ―――) 長い髪。紅い唇。しっとりと纏った甘い香り。気づけばユウリはその名を紡いでいた。 「…ぐッ!」 瞬間、ドッピオの腕がユウリの首にのばされ、骨を折る勢いで締め上げる。 「あ…ッ」 交差する視線。額に掛かった前髪で、ドッピオの表情は窺えないが、彼の双眸に宿る歪んだ光が視界を照らす。 「ドッピ…オ…」 違う。ドッピオではない。ドッピオの瞳ではない。 アナタは、誰―――? 今までに見たことのない、目だった。知らない人の目。けれどユウリはこの瞳を知っている。 怖くはなかった。しかし、その名を呟いてしまったら、すべてが終わるような気がした。 何も知らない、馬鹿な女を演じ続けるべきなのだと思った。 (…でも…) 許してくれなくてもいい。ただ信じて欲しいだけ。私はアナタもドッピオも愛している。 「好き、…愛してる。…私を、そばに置いて。ディアボロ―――」 何かが壊れる音がした。 了 2012.07.14 |