メサイア 童貞を喪失して以来、ナランチャは、ユウリとしばしば関係をもった。彼女はなぜか、いつも、ナランチャが暇を持て余しているときに、そのタイミングを見計らったかのように現れ、ふらりと彼をさらっていく。 『変態女』とユウリを毛嫌いしつつも、ナランチャは、彼女の肉体に溺れつつあった。彼女に骨抜きにされたフーゴの気持ちも、わからなくもないような気がする。それほどにユウリの体は美しく、もたらされる快感は甘美そのものなのだった。 『愛しているとか愛していないとか、そんなコトはどうだっていいの』 ナランチャの頭に引っかかっているのは、彼女の発したその言葉だった。 ユウリは愛されることを望んでいないのか?そして誰かを本気で愛したことはないのだろうか?もしも、そうなのだとしたら、彼女は悲しすぎる。 (…俺はどうしたらイイんだろう?) 彼女を放っておけばいいのか、それとも。 そんなことを、少し前に、ブチャラティに相談したが、彼は、 「お前がそんなことを気にしなくて良い」 と、言った。一度抱いた女に情がうつっただけだ、とも。 それは、ユウリには深入りは禁物、という、ブチャラティなりの警告だったのだが、言われた言葉を真正面からしか捉えることのできないナランチャには意味がなかった。 ゆえに、ナランチャは結局、ユウリを放っておけず、気づけばいつも彼女のペースに呑まれているのだった。 「…何を考えているの?」 下方から声がする。二人は、いつものように――そう言えるくらいの頻度で彼らは会っていた――ネアポリス市街にあるホテルの一室に居た。 ナランチャの返事がないことに、ユウリは別段、気にするふうもなく、手の中で熱くなったナランチャのそれを咥えなおした。 「あ!」 目を瞑り、喉元をふるわせるナランチャ。彼の素直な反応が、ユウリはとても好きだった。 「あっ、あっ、ユウリっ」 尿道への刺激に弱いのか、ベッドの上で、必死に腰を引いて逃れようとする。けれどそれも、次第に自ら腰を振るような形になり、ユウリは目を細めて彼を見上げた。 「何か、エロくなったね、ナランチャ」 「あっ!だ、だってェ…」 竿から玉のほうへ指をずらし、くにくにと刺激してやると、ナランチャは言葉もそこそこに喘ぐのだった。 そんな彼の姿を見ているだけで、ユウリはなぜか、妙な満足感に包まれる。行為の最中のナランチャは女以上に艶めかしい。 「もう入れたい?」 ユウリは、自身のシャツのボタンに手をかけながら、言う。服を全て取り払われ、裸になったナランチャに反し、彼女はまだきちんと服を着たままだった。それがナランチャの羞恥心を余計に煽る。 「入れたいんでしょ?」 ボタンをナランチャの指に託し、ユウリはクスクスと小さく笑う。まるで馬鹿にされているようで、気に食わず、ナランチャは、手に掛けたボタンを乱暴に外していく。けれどそれが、かえってがっついているように見えてしまい、ユウリの笑顔はますます深くなる。 せめてもの抵抗、と、ナランチャは、ブラジャーからこぼれた乳首に噛みついてやる。 「痛ッ」 ユウリが顔をしかめても、ナランチャはなおも攻撃的だった。乳首を指で抓り、もう片方の豊満な白い乳房に赤々とした歯形を残す。 「ちょっ、ちょっとぉ…」 ユウリにしては珍しい、困ったような声。商売道具に傷がついて、ショックを受けているのだろうか。 『商売道具』自身の脳裏に浮かんだその言葉に、ナランチャはなぜだか、胸が痛むのを感じた。 しかし、ユウリは普通の女ではない。これくらいでうろたえるような神経は持ち合わせていないのだ。 そのことにナランチャが気づくのは、約一秒後のことである。 「お返しよ」 「えっ?」 視界が反転する。ナランチャはうつ伏せに転がされ、力の抜けた腰を持ち上げられる。ユウリの方へ尻を突きだすような形である。 「なッ!?な、なァ〜〜!?」 ナランチャはあまりの恥ずかしさに、抵抗しようとするが、瞬間、今までに感じたことのない刺激が下半身を貫き、背中を仰け反らせた。 普段、排泄にしか使われない小さな穴―――そこにユウリは舌を這わせていた。 「やッ!!やめッ、おま、何してンだ…ッ!!」 「んー?」 答えになっていない。ユウリはナランチャが抵抗することもかまわず、少しほぐれたくぼみに、細くした舌先を差し入れた。 「あッ!!や、ダメだってッ!!」 少年院にいたころ、男しかいない閉鎖空間で、性の捌け口として男同士での行為に走る者も少なくなかった。ナランチャも度々危ない目には遭ってきたが、そのたびに返り討ちにしたものだ。女も抱いたことがないのに、その前に男を経験するなんて冗談ではない。 よって、肛門への刺激など初めてであり、また、それを平然とやってのけるユウリも信じられなかった。決してシビれも憧れもしない。 「やっ、ぁ…、なんか、ヘンだ…っ」 「気持ちよくなってきたでしょ」 舌でじゅうぶんにほぐしたあとで、細い人さし指をつぷ、と埋め込む。唾液で湿ったそこはあっさりとユウリの指を受け入れた。 『変な感じ』だったのが、くりくりとほじるように、内側をこすられると、次第に明確な快感に変わってきて、ナランチャは自分自身に失望した。 「んンっ…う、んんッ…」 四つん這いになり、枕に顔をうずめて声を抑える。そうでもしないと、女のような甲高い声が出るのを抑えられない。 「あっ…、あ、ユウリ、もぉ…ッ」 イキたい。けれど後ろだけへの刺激だけではイケない。それを知っていて、ユウリは決してペニスを弄ろうとしない。小刻みにアナルでの出し入れを繰り返す指が悩ましい。 「ふぁ、ユウリっ、チンコも、いじってくれよッ」 ちゅくちゅくとぬるい水音のする下半身。次いで聞こえる、溜息のような笑い声。 「しょうがない子」 言って、ユウリは、ナランチャの体を仰向けにし、ゆっくりと彼を跨いだ。 ナランチャのペニスは、重力に逆らい、腹につきそうなほど硬く反り返っている。ユウリは満足げに目を細めた。 ショーツを下ろし、脚から抜き取ると、ベッドわきに投げ捨てる。 ユウリの秘部は、こぼれ落ちそうなほど蜜を溜めこみ、茂みの奥では肉のひだがテラテラとイヤらしく光っていた。 「ん…」 じらすように、ゆっくりと腰を落とす。先端同士がふれ合う。 粘膜同士がぴたりと合わさっているのに、それ以上は進めようとしないユウリに、ナランチャはもどかしさのあまり腰をカクカクと揺さぶる。 「はッ、早く、早く入れてくれよッ」 「そうねぇ…」 ユウリは、彼の素直な態度に口元を綻ばせる。 飾り気のない、ストレートな言葉をくちにする十五歳の少年に、ユウリはかつて感じたことのない、あたたかな感情を抱きはじめていた。 ちゅ、と音を立てて、キスをする。唇を舐め上げながら、性器と性器の入り口をこすり合わせ、互いの敏感な部分を愛撫する。 こするだけの曖昧な快感に、ナランチャは目に涙を浮かべて喘ぐのだった。 「あっ、あっ、ユウリ…」 「ん…、ナランチャ…」 その動きが激しくなり、やがて、欲でふやけた割れ目にペニスの先がちゅく、と埋まる。ナランチャが腰を浮かすと、ユウリはもう焦らそうとはせず、素直に腰を下まで沈めた。最深部まで達するナランチャのペニスに、ユウリは恍惚とした表情を浮かべ、甘い溜息をもらす。 「はぁ…っ、あ、…ン」 欲の昂ぶりのまま、尻を振る。結合部からクチクチと小さな音がもれ、興奮をより煽る。 「うぁ、ユウリ、すげ…良い」 「ナランチャ、ぁん…い、あぁ…ン」 完全なユウリ主導の体位だが、この際気にならないのか、ナランチャは彼女の動きに合わせて腰を振っている。喘ぎながらも、時折、眼前でゆれる乳房に手を這わせてみたりもする。そのたびにユウリは、どこか余裕の感じられる吐息をもらすのだった。 「んっ、くぅ、あ〜…ッ」 「はっ、ぁ、で、出そう…?」 「うっ、うん…」 乳房を包んでいた手が、恥ずかしそうに下方へのびて、ユウリの腰を掴む。 「いいよ、いって…」 そう言って動きを激しくするユウリに、ナランチャは身を任せ、夢中で昇りつめていく。 与えられる快感に耐えられるはずがなく、ナランチャは程なくして全身を強張らせ、ぴくぴくと収縮するユウリの中に欲望をすべてぶちまけた。 「ナランチャ…」 行為のあとのキスを、ナランチャは受け入れた。もはや拒絶する気にはならなかった。それは、髪のあいだからのぞいた彼女の瞳が、驚くほど綺麗だったから。そして、思いのほか寂しそうだったから。 了 2012.07.09 |