きみはエーテル
「ユウリの髪って、綺麗ですよね」

 フーゴは私の髪をひと束とって、口付けを落とした。フーゴも私も裸のままベッドに寝転んでいる。寝転んで片肘をつきながら、フーゴは私の髪を撫でて、微笑む。そのキザな態度に、私も思わず笑ってしまった。

「笑わないでくださいよ」

 セックスの後のフーゴは饒舌だ。今までに関係をもった男の誰よりもピロートークを楽しみ、事後のとろけた空気を好んでいる。
 フーゴとのセックスは好きだ。欲情した彼はとても可愛い。もともと、童貞だったフーゴに肉体関係を迫ったのは私の方だが、今ではすっかり彼の方が私の身体に溺れてしまっている。

 会って、食事をして、セックスをする。
 そんな日々も悪くはないけれど、同じことの繰り返しではつまらない。マンネリ解消も兼ねて、私は一石を投じることにした。

「ねえフーゴ」
「ん?」

 フーゴはゆっくりと私の頬を撫でている。夢見心地に微笑む彼だったが、次の私の言葉に、その表情のまま凍りついた。

「私たち最近、セックスしかしてないわよね」
「…えっ?」

 痙攣するように、口元が引きつっている。

「まさか『体目当て』とでも思ってますか」
「そうじゃあないけど」
「…セックスばかりしたがる僕がイヤになった?」

 そう言って、フーゴは不安そうにシュンと眉を下げる。すぐにこういう顔をするから、私はついフーゴをいじめたくなるのだ。
 しょんぼりとむすばれた唇にキスを落とす。

「違うわ。ただ少し趣向を変えてみたくなったの」
「趣向を変えるって?」
「そう。今日からしばらくセックスは禁止」
「…えっ!?」

 フーゴは大声をだして目を見開いた。予想通りのリアクション。
 たたみかけるように、続ける。

「もちろんオナニーもダメだからね」
「えっ!?」
「そうね、1週間くらい我慢してもらおうかな」
「いっ、1週間!?」

 フーゴはガバッと身を起こして「そんなの無理ですよ!!」と力いっぱいに言う。…とても大声で力説するような内容ではないが、フーゴの目は真剣だ。
 16やそこらの、セックスを覚えたばかりの少年にとって、1週間の禁欲というのはキツいだろう。それでも私は、そうやすやすと引き下がるわけにはいかない。
「たまにはこういうのも良いでしょう?」試すようにニッと口角を上げて、微笑みの形をつくる。フーゴは私のこういう顔が好きだ。フーゴは一瞬、うっ、と頬を赤くして仰け反ったが、すぐに「よ、良くないッ!」と自我を取り戻した。

「よ、良くないッ! ちっとも良くない! ユウリ、またそうやって僕をからかって遊んでますね!?」

 …さすが、鋭い。仕方がないので、私はフーゴの握りこぶしをそっと手のひらで包み込み、ちゅっと音を立ててキスをした。シンプルだけれど、フーゴはこれに弱いのだ。

「ね、フーゴ。お願い。1週間ガマンできたら、ご褒美をあげるから」
「ご、ご褒美って…?」
「そうねぇ、その日は私を好きにしていいわ」
「…………」

「あなたって人は…」頬を染めたまま、唇を噛んでフーゴがうつむく。
 よし、だいぶグラついてるな。

「…本当に…1週間だけですからね」
「!」

 やった。これは面白いことになる!…とは、とても言えないので「ワガママ聞いてくれてありがとう、嬉しい」と語尾にハートマークを付けてフーゴに抱きついた。

「まったく…こんなバカなことを言うのは貴女くらいですよ」

 そう言ってフーゴは私を抱きしめ返してくれる。裸同士、素肌が触れ合って心地良い。腰に回されていたフーゴの手が私の尻を撫ではじめたので、こら、と制止する。

「止めないでください。これから僕は1週間も貴女に触れられなくなるんですから」

 今のうちに沢山さわっておくんです!と威張るフーゴ。触るだけじゃ済まないくせに。
 そうこうしているうちにフーゴの手は私の胸や下半身を愛撫しはじめる。ほらやっぱりね。でもまあ、禁欲前にもう一度くらい交わっておくのも悪くない。

 少年の優しくも拙い手つきに、素直に声を漏らして、私はその快感の波に身をゆだねた。











 1日目。
 いつもどおり『会いたい』とか『寂しい』とかメールが届く。

 2日目。
 夜、電話があった。たわいもない話をして電話を切る。

 3日目。
 用があってブチャラティと会った。
 「フーゴの奴、ここ最近様子がおかしい。お前、今度はフーゴに何したんだ」と言われた。人聞きが悪い。むしろ私はフーゴに何もしていないのに。

 4日目。
 眠れない、とフーゴから連絡があった。電話口の彼は心なしか息が荒い。
 電話越しにはらぺこあおむしの絵本を読み聞かせてやると、子ども扱いはやめてくださいと文句を言いつつ、フーゴはやがて穏やかな寝息を立てて眠りについた。

 5日目。
 その日、私は朝から忙しかった。仕事を片付けて帰宅した頃にはもう日付が変わっていた。
 晩酌をしようと母国のウイスキーを開けた。ロックグラスに氷を入れ、トパーズのような色の液体を注ぐ。それをひと口煽ったときだった。猛烈な勢いでインターホンが連打された。

 けたたましく鳴り続けるインターホン。
 こんな時間に誰よ、とは思わなかった。ただ、予想より早かったな、と思う。
 玄関のチェーンを外し、じらすようにゆっくりとドアを開けると、そこには縋るような目をしたフーゴが立っていた。

「あら、フーゴ。こんな夜中にどうしたの」
「どうしたの、って…」

 よくそんなことが言えますね…!
 しぼり出すように言って、フーゴは私の両腕を掴む。目にはうっすらと涙が浮かんでおり、風邪をひいたみたいに頬は赤い。姿勢はつねに前屈みで、切なそうに腰をくねらせる。
「入って」玄関先でやり取りするのも何だと思い、リビングへ導く。

 フーゴはされるがままソファに凭れた。飲みかけのウイスキーのボトルとグラスを持って「飲む?」とすすめるが、そんなものいりませんと突っぱねられた。

「僕がいま何を欲しがってるか、貴女ならわかるでしょう!」

 強い口調で言う。あらあら、ととぼけながら、彼の隣に腰をおろした。

「1週間の約束でしょ」
「そんなのッ、待てるワケないでしょう!」
「んっ」

 強引に唇が押しあてられる。噛みつくように始まり、激しく口内を荒らすキス。無茶苦茶に舌を探り、呼吸する暇さえ与えない。
 キスの合間に、途切れ途切れ、彼の目を見据えて言う。

「っふ…、1週間も我慢できないなんて、フーゴったら」
「無理に…決まってるじゃあないですかッ…」

 ドロドロに口付け合いながら、ゆっくりとソファに押し倒される。ぐいぐいと腰を押し付けてくるフーゴ。その身体すべてが、熱い。言及しなかったが、玄関のドアをあけたときからすでに彼の身体の中心は張り詰めていた。

「オナニー我慢するのツラかった?」
「当たり前ですッ! 僕、もう…」

 カチャカチャとあせったようにベルトを外し、フーゴはボトムを脱ぎ捨てた。股上の浅いグレーのボクサーパンツ。その盛り上がった中央には、大きな染みが色濃く広がっており、フーゴは私の手のひらをそこへ導いた。

「ねえ、ユウリ、わかりますか? 約束の1週間は守れなかったけど、僕、ずっと我慢してたんです。さわってください、僕もう、こんな…」

 饒舌なフーゴは私の手がそこをかすめただけで、はあはあと息を荒くする。やさしくさすると、硬く、あたたかいペニスが私の手の中で面白いくらい大袈裟に跳ねた。

「はぁっ、ユウリ、早く。もっと強く、こすってください。もう我慢できません、あなたが欲しくてたまらないんですっ…」
「…しょうがない子ね…」

 ソファにもたれるフーゴの脚の間に移動して、跪く。
 下着を膝までおろすと、腹につくぐらいの勢いでぶるんとペニスが飛び出した。その勃起ぶりは彼の美貌とはかけ離れた凄まじいものだった。5日間溜め込んだ劣情でガチガチに張り詰めており、まるでローションをかぶったようにヌルヌルと濡れている。

「すごい。たった5日で、こんなことになっちゃうんだ」
「5日も、我慢したんですよ。何度も1人でしようとしたけど、ご褒美のために、我慢したんです…!」
「あら、そうなの」ペニスを見つめたまま、笑う。「それは残念」

「い、意地悪ッ…」吐息がペニスの表面をかすめたらしく、フーゴが小さく喘いだ。視線だけでも感じているみたいに、ぴくぴくとペニスは細やかに上下する。

「ねえ、早くっ…!」
「あっ」

 フーゴが私の首の後ろを掴み、濡れたペニスを顔に押し付ける。漏らしたみたいにだらだらとカウパーが溢れ続けている。

「もう、そんなに焦らないで。ちゃんと舐めてあげるから…」

 舌を出して、口を大きくひらき、亀頭を迎え入れる。「あぁッ…!!」フーゴの太ももが震えた。粘り気のある潮風のような匂いが鼻腔いっぱいに広がる。舌の上を満たす涙の味。

「あぁぁぁっ…! 良いぃ…、すぐ、出ちゃいますっ…」
「んんっ…」

 すべて咥えこむ前に、フーゴが腰を揺らして喉の奥まで突いてくる。少し苦しかったけれど、フーゴの腰はほとんど無意識に動いているらしかった。

「あぅぅっ…ううぅん、あぁ…ッ!」

 ゆるんだ口元からはひとすじの唾液が伝っている。普段上品に澄ましているフーゴの、こういう顔がたまらなく好きだ。怒りでも快楽でも、感情にまかせたフーゴの表情はとてもセクシーなのだ。

「あっあぁん、ユウリ、はぁ、すごく良いですぅぅ!」

 私の唾液とフーゴのカウパーとで、淡い色の彼の陰毛も内腿もぐっしょりと濡れている。健康な青少年が5日間も禁欲していたのだ、きっとそう長くはもたないだろう。

「んぶっ…んぅ…」
「はぁっ、はぁっ、ユウリ、あぁぁ、出ちゃう、もう出ちゃうぅぅ」

 頭を前後に降り、舌で先端を刺激する。フーゴの声と震えがさらに大きくなる。

「あぁぁぁ! もうダメッ! 出ちゃいます、イク、イクーッ!」
「んッ!」

 ぐん、と腰を突き出し、フーゴは射精した。溜め込んだ濃い精子が喉の奥にわだかまる。

「はぁ…はぁ…」
「すっごく濃い…ひっついて飲みにくいわ」
「あっ…! ご、ごめんなさいッ」

 草のように苦い口の中のものを飲みくだすと、恥ずかしいのか、フーゴの頬にさあっと赤みがさした。まだ興奮がおさまりきっていないようで、ペニスは依然として上を向いたままだ。

 尿道に残った精子をちゅっと吸い出し、フーゴの反応を伺う。

「ユウリ、お願いです、入れさせて…」

 ごしごしと自らペニスを扱きながら、フーゴは切なげな目を向けてくる。私も先ほどから下が濡れているのを感じていた。5日間、彼に触れられずに欲求を持て余していたのは私も同じなのだ。

 ルームウェアのホットパンツを、じらすようにゆっくりと脱ぐ。フーゴは待ちきれないのか、ますます激しくペニスをシゴいている。

「そんなに激しくしたら、またすぐに出ちゃうわよ」
「はぁ、あぁ…。そしたら、何度でも勃たせます…」
「ふふ…」

 フーゴが上下に手を動かすたびに、ぷっくりと丸い亀頭が雫を流し、赤い先端部を淫らに光らせる。

「あぁ、ユウリ、早く、早くこっち…」

 熱に浮かされたような瞳に導かれ、ソファに四つん這いになった。犬のような姿勢で、フーゴに尻を向けている。

「はぁっ…可愛いお尻…」

 ぺろんとショーツをめくられ、あらわになった尻を揉まれた。あそこがもうびしょびしょに濡れていて、外気に晒されてひんやりする。内ももにはフーゴが息を荒くして、ペニスをこすりつけてくる。

「あっ…、あん…」
「ユウリ、濡れてる、すごいですよ」

 ペニスで確かめるように、ぐっしょり濡れた割れ目を何度もこする。素股でも挿入でもないもどかしい刺激。
 私はフーゴのほうを振り返って、言った。「本当のことを教えてあげる」

「私ね…、私のことで頭がいっぱいになってるフーゴが見たかったの。意地悪言ってごめんね」
「ッ、そんなの…!!」

 僕はいつもあなたのことで頭がいっぱいなのに!
 そんな言葉とともに、ペニスが私の中に入ってきた。

「あっ!あぁぁん!」
「ユウリ、ユウリッ! あぁぁ! おまんこ締まるぅっ」
「あぁ〜ん、はぅん、あぁん! フーゴぉ、いっぱい突いてぇ!」

 恥ずかしい声を上げながら、たんったんっと小刻みに腰をぶつける。1番奥をペニスがツンツンと突くたびに、頭のてっぺんがしびれて、全身を貫くみたいな鋭い快感がはしる。

「あぁっ! んぅぅ、んンッ、あぁん!」
「あん、あぁん、フーゴ、イキそう? ねえイキそう?」
「あぁぁん、イクッ、またイクっ! 我慢できませんッ、中に出ちゃう!」

 女みたいな声でフーゴが喘ぐ。結合部がぐちゃぐちゃとすごい音を立てている。水気を多く含んだ音に興奮を煽られ、私もフーゴも快感が一気に駆け上がった。

「あぁぁ! もう出る、イくぅぅぅ!」
「あぁぁぁん! 私もダメぇ、いっちゃう!」

 激しく腰を打ち付けていたフーゴがびくっと大きく震えて、私の尻たぶを強く掴んだ。ぴゅっぴゅっと中にあたたかいものが吐き出されている。
 射精している間もゆるゆると腰をふるのをやめないフーゴに、思わず笑みがこぼれた。必死になって快楽をむさぼる彼が愛しい。

「あ、あぁ…、すごい出た…」

 崩れ落ちるように、後ろから抱きしめられる。ペニスはまだ私の中に入ったままだ。

「ユウリ、すごく、気持ちよかった…」
「私も。たまには我慢するのもいいかもね」
「いや何言ってるんですか!? 僕はもう二度とごめんですよ!」
「え? ダメ?」

 腕の中で体を反転させ、こてんと首を傾げてみる。フーゴはぐっと言葉に詰まったが、ややあって、誤魔化されませんから!と顔を赤くして叫んだ。貴女って人は、と文句を言っているが、私の中におさまったペニスがまたムクムクと大きくなっていき、言葉はなんの意味も為さなくなった。




2019.04.02
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