セブンス・ヘブン01
 安っぽいモーテルの一室に、オレンジ色の優しい照明がさしている。テーブルに置かれた、傘つきのライトスタンドに影が落ちる。戸惑いと焦りに浮かされた、悩ましい男の影である。

「ねぇ、お願い」

 影の主であるブチャラティは、言葉どおり、懇願するような視線を向ける眼下の女に、一言、言った。「ダメだ」

「どうして?」
「どうして、じゃあない。お前には、節操というものがないのか?」
「ポルポのことを気にしているの?それなら、心配ないわ。これは彼の頼みでもあるのよ。本人から聞いているでしょう?」

 眉尻を下げて、ここまで食い下がる彼女の名前はユウリという。彼女は、ブチャラティの上司であるポルポの愛妾だった。そこまで若くはないが、欲望に忠実で、よく言えば天真爛漫な女性である。

 美しい肉体美を誇り、また男好きのする美貌を兼ねそろえたユウリのことを、ポルポはそれはそれは可愛がっていた。
 ユウリとブチャラティは、初対面というわけではないが、決して親しいというわけでもない。ポルポのいる刑務所へ赴いた際に、二人が獄中でいちゃついているのを何度か見た程度である。
 はた目から見てもわかるほどに、ポルポのユウリへの愛は、性の欲求としてより、むしろ犬猫に対するような、愛玩動物的な意味合いが大きかった。そのことに、互いに不満もないように見えた。
 しかし、今思えば、それが、現在の二人の状況を作り出したのである。

 ユウリは尚も続ける。
 「ブチャラティ、抱いて」言いながら、ユウリは無抵抗なブチャラティをベッドに押し倒す。

「ねえ。女を抱くって、そんなに難しいコトかしら?」
「それは、ただの男女であれば、の話だろう」
「私たちだって、ただの男と女よ。ビビってるの、ブチャラティ」

 自身の身体に覆いかぶさったまま、ぷちぷちとブラウスのボタンを外しはじめるユウリの手を、ブチャラティが制した。

「そんなに魅力ない?私のこと嫌い?」

 大きく肌蹴たブラウスからは、胸の谷間もくびれたウエストも白い腹も見えている。これを見て反応しない男などいないだろう。
 「そんなことは…」冷静なまなざしがユウリを射る。「…だが俺は、お前に手を出したくない」

「どうして?好きな女の子でもいるの?」
「………そんなようなものだ」
「それなら、その子の顔でも思い浮かべたらいいでしょ。私を代用品にできるなんて、有難いと思ってよね」

 ブチャラティに跨ったユウリの身体が、ずりずりと下降していく。まだやわらかい股間部をひとなでし、ユウリは、スーツのジッパーをゆっくり下ろした。

「…ッ、やめろ」
「そう思うんなら、本気で抵抗したら」
「…お前に、手荒なまねはできない」

 「だから、やめてくれ」そう言いたかった。しかし、ブチャラティは、う、と低くうめくだけで、言葉にはならなかった。
 下着ごとスーツを脱がされ、ブチャラティのペニスがユウリの眼前にさらされる。「観念なさい」ユウリは、黒々と茂る陰毛に鼻先をうずめ、目線だけで彼に説いてみせる。

「や、めろ…」
「まだ言うの」

 ユウリの言い分はこうだ。ブチャラティのことは愛していない。ポルポのことも、決して、嫌いではないが、愛しているわけでもない。
 ポルポは彼女の恋人であり、彼女を愛していたが、不能だった。
 そのことを、ユウリは不満に思い、ポルポが信頼をおいている部下をと、思い切ってブチャラティを指名したのだ。
「私を愛しているなら、セックスの面倒も見て」
 ポルポを説得することは容易かった。
 しかし、ブチャラティを籠絡することが、ここまで難しいとは思ってもいなかった。

 ブチャラティを指名した理由は、単に顔がタイプだったからである。安易に決めてしまったことを、ユウリはわずかに後悔した。

「…、やめ…」

 ブチャラティの言葉を無視し、ユウリは、わずかに固さを帯びたペニスを上下に扱く。
 透明な雫が亀頭ににじむころ、ペニスはすっかり固くなり、弓なりに天を向いていた。

「乳首も勃ってるわよ。感じやすいんだ?」

 からかうようなその口調に、ブチャラティの端正な顔に翳りが差した。きゅっと細められた両目はまるでユウリの恥行を咎めるようだ。

「あの人に義理立てでもしてるのなら、むしろ遠慮なく私を抱くことね。ほら。こっちはこんなに素直じゃあないの」

 左手でペニスを扱き、胸のレースをずらして乳首に食いつく。舌を使わずとも、唇ではさんでやるだけで、ブチャラティは溜息をもらして仰け反った。

「好きな女としかセックスできない、なんてのはこの世界で通用しないのよ。ブチャラティ。男と女はそんなに複雑じゃあないの」
「やめろ、俺は…」

 欲望のまま、ベッドに押し倒したブチャラティの身体がしなる。「あ…ッ」亀頭に滲んだナミダを舐めとると、彼は途切れ途切れに小さく喘いだ。
 間髪入れずに、モノ全体を口で愛撫し、頭を上下に動かして丹念に舐めていく。

「はぁっ…あ、…やめ、…ッぁ」
「可愛い。ブチャラティ」

 整った容姿の割に、セックスの体験は多くないのだろうか―――そんなことを思わせる初心な反応に、ユウリの征服欲が満たされていく。
 見ているだけで興奮してしまう。一度もふれてもらっていないのに、下着の中はすでに水気があふれていた。
 裏筋にそってツツーと舐め上げると、ブチャラティは声を殺してユウリの髪を強く掴んだ。理性の糸が切れたのだろうか、髪を掴んだまま、乱暴にユウリの頭を上下に揺すり、絶頂へと上りつめていく。

「出る?」
「…ッ」

 漏らすように、生温かい液体が、ぴゅるぴゅると口内へと流れ込んでくる。それを飲み干し、ユウリは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「やっと素直になったわね」
「……っは…人の気も知らないで…」
「何のコト?」

「いや。こっちの話だ」言いながら、上着を脱ぎ捨てる。逞しいブチャラティの上半身があらわになった。
 良い体してるわね、とベッドに横たわるユウリ。その上に覆いかぶさり、ブチャラティは、ブラジャーの上から乳房を揉み上げる。



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