silent moon 月のない深夜。繁華街の路地裏に、荒っぽい息遣いがふたり分。 「っはぁ…」 「待ァて待て、ユウリ、待てゴラ」 何度もキスを繰り返し、唇の端から唾液が伝う。さらに深く噛み付こうとするユウリの顔面を、プロシュートは手のひらで押さえつけ、待て、と飼い犬へ向けるような声を出す。 けれど躾の行き届いていないこの飼い犬は、いや、と小さく鳴いて、すでに乱れたプロシュートのスーツを脱がしに掛かる。 「このボケが。待てのひとつも覚えらンねえのか」 「だってお腹がすいてるの。我慢できない。プロシュート、お願い、ちょうだい」 「場所を、考えろ…」 首筋を転がる吐息に、身をよじる。 ここでユウリに牙を突き立てられてはまずい。プロシュートは舌打ちすると、 「来い…!」 低く唸って、彼女の腕を掴んで歩き出した。 引きずるようにして、近くのモーテルにユウリを連れ込む。倒れるようにしてベッドへ転がり込むと、組み敷かれるより早く、ユウリはプロシュートに覆いかぶさった。 「綺麗な唇。作りものみたい」 「腹の虫鳴かせながら言うセリフか?」 くっ、と漏れた笑いは、女の赤い唇に飲み込まれる。「ん…」どちらともなく漏れる声。水分の多い舌が、プロシュートの口内を荒らしてゆく。 これは捕食だ。 吸血鬼である彼女が、本気で血を吸う前に、いつもこうしてじっくりとキスを楽しむのは、高級レストランのシェフが食器のひとつひとつにもこだわるのと同じようなものだろうか。 「はあ、もうダメ。プロシュート、愛してる」 口早に言うと、ユウリはその白い首筋に噛み付いた。プロシュートの口から、うっ、と小さく声が漏れる。 彼女はプロシュートの血液を愛していた。 「く、………ユウリ…」 小さな牙で皮膚を破り、体内の血を吸い上げる。彼女が生きていく上で必要とする血液は、大した量ではないけれど、プロシュートを困らせていたのは吸血量そのものではなかった。 コクンと喉を鳴らして血を飲み切ると、先ほどより赤く満足げな頬をして、ユウリはご馳走さまと微笑んだ。 「今度はプロシュートの番。たくさんお礼をするわ」 「礼も何も、テメェのせいだろうが」 ベルトに手を掛けるユウリを、プロシュートは忌々しげに見つめる。いつものように凄んでいたが、その目は潤み、息も荒く、苦しげだ。 ユウリの吸血には副作用があった。催淫効果だ。吸血の痛みを紛らわす為なのか、それは即効性があり、彼女の牙が離れる頃にはすっかり体じゅうに行き渡っているのだった。 ボトムを脱がすと、男性器はすでに下着の中でパンパンに張り詰めていた。 それを下着越しに撫でてやる。 「はぁ…っ」 プロシュートはびくびくと腰を浮かせ、グレー地の下着に染みを作る。 「さっさと…咥えろ」 「うん」 下着を下ろすと、勢いよく飛び出たペニスがユウリの鼻先を掠めた。ふう、と息を吹きかけて、唾液でよく濡らした口内に咥え込む。 丈夫な構造をしているユウリの身体は、喉の奥までペニスを迎えてもえずくことはなかった。ぺニスの根元を手で押さえ、頭を上下に動かすと、プロシュートは喘ぎのような吐息を漏らした。 「あァッ…はぁ、……ッ…」 「可愛い、プロシュート。お尻浮いてる」 「うるせぇ…」 普段あまり過剰に喘がないプロシュートが、こんなに気持ち良さそうな声を出している。素直に反応する身体も愛おしい。ユウリは無性に彼を抱きしめたくなった。 「ケツこっち向けろ…」 はあはあと息を荒くしながら言われ、それだけでユウリは興奮した。言われた通りに下半身をプロシュートの方へ向け、顔を跨いだ。 プロシュートはユウリのスカートをめくり上げると、ショーツをずらし、目の前に現れた割れ目に舌を這わせた。 「あん、いきなり、ぁ、舐めるなんて」 びく、と尻を震わせ、ユウリは必死にペニスを扱く。プロシュートの舌使いは巧みで、気を抜くと愛撫を忘れそうになる。 「あっ! そこぉ、いいのぉ、あぁん」 「はァ、ユウリ…」 指で膣を解され、熱い吐息が割れ目をなぞる。性急な前戯。振り返って見てみれば、熱に浮かされたようなプロシュートの表情。きっと限界が近いのだ。ぺニスの先端からはダラダラと透明な汁が溢れ続けている。 「あん、プロシュート、…入れていい?」 体を起こし、騎乗位の体勢で、腰に跨る。 入れていい?などと言いながら、性器と性器がふれ合った状態で、腰を揺すった。媚薬の行き渡ったプロシュートの身体は、そんな柔な刺激にすらびくびくと反応する。 「…さっさと、…しろ…!」 「あっ」 耐えかねたプロシュートが、腰を叩きつけるように押し当てる。先端が簡単に入り、ユウリはそのまま腰を下ろした。 「あ、ん!」 一気に根元まで深く繋がる。両手の行き場を探すと、見つけるより早くプロシュートが指を絡めた。嬉しくて、ユウリは腰を揺さぶりながらキスをした。 「ンんっ…む、…ぅ」 くちゃくちゃと粘着質な音が、合わさった唇からも性器からも漏れ聞こえる。その恥ずかしい音が、2人の欲をより煽った。 「はァッ、あぁ、…はっ」 「イイの? プロシュート、イッちゃうの?」 大きく腰を振りながら、強請るようにユウリが言う。余裕のない表情で喘ぐプロシュートが愛しかった。感情のままに夢中で腰を動かした。 「あん、うぅん、イイ、あっ」 「…ッ、出すぞ!」 プロシュートは深く腰を打ち込むと、堪えていたものを全て吐き出した。「あァッ…」あまりの快感に腰が痺れる。 「あぁ…すっごい出てるぅ…」 「…はぁー…、はぁ…」 射精が終わるまで、何度も腰を打ち付ける。 全て出し切ってからも、その余韻に頭がクラクラした。彼女の媚薬はあまりにも強力だった。 「大丈夫?」 いまだに疼きの治らない肉体をベッドに投げ出すプロシュートへ、ユウリが尋ねる。 大丈夫ではない。勃起はおさまらないし、それなのに身体は痺れて動きが鈍い。もう当分、この部屋から出られそうにない。 文句の一つも言いたかったが、プロシュート大好き、と絡みついてくるユウリが思いのほか可愛かったので、今日のところは許してやることにした。 了 2019.02.28 |