04
 ごろん、とベッドに身を横たえ、目を瞑る。
『―――俺は、嫌いじゃあない』
 あれからもう随分経つというのに、ブチャラティの言葉が耳から離れない。
 一人きりのベッドルームで、赤くなった顔を隠すように、ユウリは枕に顔をうずめた。

(…あぁ、もう。何なのよ、これ)

 悶々としていた。部屋に籠っている間、様々な思考を巡らせた。
―――年下の男なんて興味ないのに。少しからかってやるくらいで丁度良かったのに。
 そもそもあの男は自分を捕らえ、この部屋に軟禁している組織の一員なのだ。こんな、つまらない情に流されている場合ではない。

 わかっている。自分の立場も十二分に自覚している。
 けれど…。

 気づけば、ブチャラティの来訪を心待ちにしていた。用もないのに、半ば無理やり理由づけて、自分の元へ来させていた。
 今日だってそうだ。一昨日買って来させたバスメルツが気に入らないとか何とか言って、わざわざブランドまで指定して別の入浴剤を買いに行かせたのだ。
 その旨を電話で伝えたとき、ブチャラティは、仲間達とネアポリスの街を巡回していたらしく、電話の向こう側は甚く賑やかな様子だった。それがユウリにとっては寂しかった。

 自分の知らないブチャラティ。自分の知らない仲間達。
 ブチャラティについて、知っていることの方がむしろ少ないはずなのに、どういうわけか胸が痛んだ。

「…いい年して、バカみたいよね」

 ぽつり、呟いた独り言は枕に押し付けた。室内に静寂が戻る。
 ブチャラティまだかしら。そう思うのと、インターホンが鳴るのとはほぼ同時であった。

 インターホンが、三回。わざとらしい咳払いが一回。ブチャラティだ。

「今開けるわ」

 なるべく冷静なように見せかける。いつもと変わらない、ポーカーフェイスを気取るのだ。簡単だ。
 汗ばんだ手でドアノブを回し、茶色い紙袋を抱えたブチャラティを手招きする。
「遅れて、すまない」走ってきたのだろうか、申し訳なさそうな表情をしたブチャラティの頬はわずかに紅潮し、息も上がっている。
 こんなちっぽけな用事のために、まさか。そう思いながら、ユウリはうっすらと汗の浮かんだ彼の額にハンカチをあてた。

「汗かいてるわよ。外は暑かった?」
「………」
「…?」

 妙に長い沈黙を、ゴト、という、物の落下音が遮断する。ブチャラティの手から紙袋が落ち、買って来させたカラフルな固形入浴剤が床に転がった。

「ブチャラティ!?」

 ブチャラティの顔が、ユウリの顔の位置より低くなる。目の焦点はもはや合っていなかった。
 ずるずると壁にもたれながら、床へと倒れ込み、ブチャラティは静かに意識を手放した。




2012.3.29
[ top ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -