2.視線が痛い、無言が怖い。
 テーブルにのった豆大福を、スタープラチナが不思議そうな顔で見つめていた。

「この店の和菓子が好きなのよ」

 独り言のように言い、ひしゃげたピンポン球のようなかたちのそれを頬張る。みょいん、とのびる白い生地を、スタープラチナの無垢な瞳が追っていた。

「スタンドも豆大福食べるかしら」
「食うわけねえだろ…」

 ソファに腰かけ、煙草をふかしながら空条君が言った。
 学校内で煙草はやめなさいと、何度言っても聞きやしない。私は一応、これでも教師なのだけど。
 
 『スタンド』とは個人の持つ特殊能力を具現化した存在で、その形状は人によって様々である。
 私のスタンドは、色も形もヴァイオリンに酷似しているけれど、空条君のスタンド――“スタープラチナ”は人に近い見た目をしている。彼曰く、こういった見た目のスタンドは数多くあるらしい。

 スタープラチナは、本体である空条君よりも表情豊かで扱いやすい。言葉はないが、幼子のように何事にも興味を示す無邪気さが、彼にはあった。
 教師という職業柄、私は、なにかを教えるということがとても好きだ。なので自然と、スタープラチナばかり構いがちになってしまう。

 もぐもぐと大福を詰め込んでいると、スタープラチナが顔を覗き込んでくる。
 近いな、と思っていると、鉱物じみた指先がのびてきて、頬をぐっと拭われる。どうやら頬に付いた餡を取ってくれたらしい。力加減がわからないのか、すこし頬が痛かった。

「ありがと、スタープラチナ」

 そう言って、つま先をのばしてやっと届く位置にある彼の頭に手をのばした。
 そのまま撫でようとして、手を止める。背後から凍りつくような視線を感じた。

 おそるおそるふり返ると、
「怖ッ」
 思わず先に声が出た。魔王のような形相で、空条君がこちらを見上げていた。

「な、なに、そんなに嫌だったわけ」
「………」
「それとも嫉妬した?なーんて…」

 わざとおどけてみせるが、どうやら逆効果だったようだ。
 空条君は額に青筋を浮かべ、無言のまま煙草を吸いこんだ。吐き出された煙が辺りに白くわだかまる。極道顔負けの気迫である。彼の喫煙を注意しなければならない立場だというのに、私は、何とか言いなさいよ…、と言うので精一杯だった。




2013.07.10
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