フレイムさんはご丁寧に上着までくれた。なんて優しい人なんだろう。嘘をついているのが申し訳なくなってきたよははは。
結局迎えという名の夢が醒めるということはなく、相も変わらず大木のそばで三日目を迎えることになる。そこで冒険の旅に出ようと思った。

この森も面白いものがあるかもしれない。動物とか植物とか、アマゾンの森の奥地みたいな。
その間にもしフレイムさんが来たら申し訳ないなあ。よし、フレイムさんが来る方に歩いて行けばいっか。そうすれば途中で会うことになるだろうし。

火の消えないランタンとありがたくいただいた上着を持ってあてもなく歩く。
早速だけど、来たときは気づかなかったが木には木の実や花が実っている。思わず手を伸ばすが、届きそうで届かない木の実。背伸びしても届かないこの中途半端な身長がもどかしい。

りんごみたいに赤く美味しそうだった。おにぎりを腹に入れた後、夜は空腹を感じたし朝の今もそれは続いている。
届きそうな木の実を探し歩く。鳥のさえずりはなかなか朝の散歩を粋にしてくれる。悪くないなあ。田舎の生活ってこんな感じなんだろうか。

誰かが整備したわけでもないのに、道のように木が生えていない場所を歩き続けて、ようやく手の届きそうな木の実を見つける。手を伸ばして、むしり取ると形が小さいだけのりんごのようなものだ。というかりんごじゃない?色つやといい形と言い。

「ラッキー」

食事にありつけそうだ。ランタンは一度おいて、上着は肩にかける。よかったよかった、とそれを丸かじりにしようと口を開けた。

「おい!」

突然響いたの怒声に、心臓がはねる。ぎょっとして振り向くといつの間にかフレイムさんが立っている。
フレイムさんは妙に怒った顔をしていて、どきっとする。なんでそんな顔してるの?

「死にたいのか」
「は…?え、っと」

なんだろう。思わず木の実も落としてしまったし、土でだいぶ汚れてる。水で洗わなきゃ。
拾おうと手を伸ばすと、力強く腕を引かれ地面に倒れ込む。えええ、フレイムさんひどい。

「これを何か知らないのか」
「りんご、かと思ったんですけど違いますか…?」
「違う。強い毒を持ち、ひとくち口にすれば一時間後には死に至る」
「ええええええ」

やっべー死ぬかもしれなかったのかよ、でも死んでもオッケーじゃね。
軽い考えの俺に対してフレイムさんはひどい顔をしていた。怒ったような困ったような、赤の他人にそんな顔するんだ、と不思議な気持ちになる。イケメンにこんな顔をさせてしまったことに罪悪感を覚える。

「馬鹿が」
「すんません」

いやあもう言うことがない。
フレイムさんにかなり怒られた。通った道を引き返しながらぴくぴく耳を揺らしているフレイムさんを見上げると、じろりと睨まれる。うわあ怒ってる。

「あれはりんごではない。忘れるな」
「は、はい」

もうほんとごめんなさい。
そう思って、ふとりんごもこっちの世界にあるのだなと気づく。だってフレイムさんはりんごを知っているように口にしているし。案外この夢の世界にも共通のいろんなものがあるのかもしれない。
「フレイムさんフレイムさん」
「…なんだ」
「アイフォンとか知ってますか?インターネットとか使えるんですよ」
「知らない」

あれ。全然知らなかったらしい。
その後もいろいろと単語を出してみるも全然わからなかった。フレイムさんは眉を寄せて何の話だと言わんばかりの顔をしている。その割には一つ一つの質問に返答してくれるあたり、真面目でいい人。

そのあとはおにぎりをくれた。しかも夜の分まで。
大木のそばでご飯を食べながら、まるでこれは夢ではなくて現実のようだと思った。もう、そんなのあり得ないけれど。

でももう3日目だ。いつまで俺は寝てるんだろう。母さんも起こしてくれれば良いのに。早く起こしてくれれば、いいのに。
じゃないと俺は退屈で、不安で、辛い。とんでもなくいやな予感がしてたまらない。不安に押しつぶされそうになる。

ひとりぼっちの森の中でひたすら夢であることを願うしかない、これは一体。

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