夜はそのランタンを見つめしばらくぼうっとして、そのうち寝てしまった。そして起きればまだ夢は覚めていない。
強い光が肌を差し、大木の日陰で俺は涼んでいた。まさかここまで夢が醒めないなんて。意識があるから余計に長く感じるだけなのかもしれない。
この暇な時間を一体どうしたらいいんだろうか、俺はそれを考えることで暇をつぶしていると遠くから誰かが歩いてくる。昨日の夜ほど暗くはないからすぐに分かった。
え、あのケモミミイケメンだ。
「まだ、迎えはこないのか?」
もしゃもしゃの髪の毛というよりぴくぴくした犬耳。こう見るとイケメンがコスプレしたようにしか見えないし、こんなコスプレでも似合うのだからイケメンってずるいな。明るい場所で見るイケメンはまぶしい。
「まだ、みたいです」
「ふむ」
まだ?そもそも迎えなんてない。
どう見ても嘘なのだから。そして多分このイケメンは薄々気付いている。でも疑わしい目で見つめられても、夢の世界の住人に夢だと言っても納得してもらえるわけがない。もっと疑いの目で見られるのがオチだ。
つまりはお手上げ状態。
イケメンは少し離れた場所に座る。鎧が、がしゃん、がしゃんと音を立てていて、重々しい音が妙に俺を不安にさせる。それ本物の鎧なのかな。そんなのが必要な世界なんだ、夢って凄い。
ああ、そうだ、お礼しなきゃ。
「えーっと、あの、これ…ランタン、ありがとうございます」
「気にするな。それよりおまえ何も食べていないだろう」
「え?ああ、はい」
確かに食べていない。が、空腹を感じなかったし、食事の必要なんてないだろうし。
「…食べるか」
鎧の隙間から手を差し込んで布袋を取り出して、差し出される。そこから覗いたのは白い米。握り飯に俺は懐かしさを感じた。母親の作るような手作りのおにぎりは、長らく高校以来全然食べていない。
夢の中で母親を恋しく思うときが来るとは思わなかったなあ。
イケメンは差し出したおにぎりを受け取るのを待っていて。ありがたく頂戴しよう。なんか急にお腹減ってきた。
「いただきます」
「もし、まだ明日もここにいるのなら届けに来よう」
「え、いいんですか?意外といい人なんですね」
思わず口をついて出てしまったが、イケメンはむっとしただけで何も言わなかった。意外と冗談とか通じる人なのかも。だからあの鞘も刀は入っていないかもしれない。鎧は実はプラスチックで出来てて軽いのかもしれない。いや、そんなことはないか。
しばらく黙々と食べていたけど、ふと好奇心が沸いてきた。というより夢の中だしいっか、とか遠慮がなくなってきただけかも知れない。もしくはイケメンに心を許してきたのかもしれない。
「その犬耳、触って良いですか」
そんな質問が口から出ていた。
イケメンは目を見開いて、言葉がないようだった。そりゃあ誰だって触りたくなるけど。
だってもふもふ。すごい柔らかそう。
今まで誰にも言われたことがないのだろうか。俺だったらすれ違い様に声をかけてる。絶対ふにゃふにゃで手触り良さそうなのに。
「これは犬ではない」
「えっ?そうなんですか!」
「これは狼だ。私は狼の血を引く獣人だ」
「へえ」
さすが夢。獣人なんてものもあるのかすごい。しかも狼って、選ばれしイケメンって感じだ。犬と何が違うのか分からないけど。うーん、凛々しさ?
「それに、触らせるわけないだろう」
「す、すいません」
気を許したのは俺だけらしい。イケメン的には俺への好感度はまだ低いようだ。ちょっと落ち込んでいると沈黙も気まずくなってきた。なんで夢の中でこんなことを思わなきゃいけないんだろう。
どうしよう、話題がない。なんとなく雑草を触ってみる。
「シノ、と言ったか」
「そう、ですけど…?」
「俺はフレイムだ」
急な自己紹介。でもそういえばイケメンの名前を知らない。フレイムってずいぶん格好良いな。しゃれてる。イケメンっぽい。
「フレイムさん」
「なんだ、シノ」
とりあえず呼んでみたのに、律儀に返してくれるこの人はやっぱりいい人なのだろう。
よし、この勢いならいけるかもしれない。
「やっぱり耳触らせてくれませんかね」
「だめに決まっているだろう」
ですよね。
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