しとしとと降る雨は、未だ止む気配を見せない。
雨の止まない理由は、カヨウとアマネが上手くいかなかったためだった。それについて今朝の会議にて、詰問された。アマネが王宮につけば、解決とはいかなかった。
それに関して、カヨウはアマネの体調が優れなかったため無理はしなかったと嘘を吐いた。実際は泣いて怒鳴るまでの拒絶をされたためだったが、世話係のスイショウも肉体的疲労の証言を行った。また精神的なものにから、食事を拒んでいることも。

早急に解決方法を、と国の頭脳と呼ばれた男たちは頓珍漢な答えを出したが、カヨウは時間による解決しかないと決め、今日の会議はお開きになった。

執務室に戻ったカヨウに、スイショウは深刻げな表情を隠さず、報告した。

「申し上げます。アマネ様は朝食には手を付けず、今朝から寝台に横になっています。怪我は治ってきていますが、完治とはほど遠く栄養もとらないため治りは遅いのかもしれません。食事は...手を付けたがりませんね、意地のようです」
「そうか」

スイショウは後悔していた。カヨウの言葉が足らなかったのだろうし、この国に来て何者かに襲われたアマネに告げるにはあまりにも急で残酷なようにも思えた。王都に来た時から顔色は優れていなかったし、困惑と不安に怯えきった様子だった。ならば自分が説明して、次の日に王と会っていればこの現状は変わったのかもしれない、と。
あまりにも早すぎた、それだけだった。

「話しはしたか」
「いえ...ただ、コールイという少年を気にかけていました。アマネ様を拾った家族の1人で、アマネ様を逃がした少年のようです」
「そうか」

あの家族、両親の2人は国賊として国に名を知らしめた。今は牢屋の中で、その処罰は未だ決まっていない。息子のコールイも同様だ。両親ほどの処罰は逃れるだろうが、それでもアマネを国に引き渡すために逃がす判断は遅すぎた。後少しでも遅れていれば届かない場所に連れて行かれていただろう。今頃アマネの命はなかったかもしれない。
同時にアマネの命を助けたのもコールイだった。

「仲が良かったのか」
「歳が近いのかもしれません。生きているのか確かめたいとおっしゃっていました」

スイショウはそれが難しいことをよく知っていた。ただでさえ、この国で神と崇められる人を危険に晒した。死刑は免れても、2度と日の目を見ることは叶わないだろう。
それでも今アマネが口にした数少ない願望だ。生きることを拒否するようになったアマネの生への欲求に繋がるのかもしれない。

――陛下は気に入らないようですが。

険しい顔で雨を見つめるカヨウは、スイショウの目にはアマネを甚く気に掛けているように見える。無表情の裏で、少ない言葉の影で、この国に恵みをもたらす雨の神としてではなくただ1人の少年として。
にも関わらずすれ違う2人はあまりにももどかしい。

「どうなさいますか」
「明日にでも、アマネを連れて王都に出かけよ。良い気分転換になるかもしれない」
「は。護衛の者はどうなさいますか」
「つけよ。軍の者を、余が選ぼう」

軍の中で王が選ぶのは忠誠心と腕に自信のある者たちだろう。そこまで手厚くしなくても王都はそこら中に兵士がいて治安がいい。それこそ王が自ら作り上げた都の結果だ。
それでも目の届かない場所に連れて行くのは不安らしい。

「はっ」

カヨウが見下ろす街、王都。カヨウたち歴代の国王が作り維持し続けた美しく栄える街。
それを見れば、アマネは気が変わるのかもしれない。ただスイショウはそれを祈るしかなかった。王もまた。

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