ミスをした。大きいと言うわけではないがスケジューリングにズレが生じるもので、初めての失態に早瀬は青ざめる。
同僚は気軽に大丈夫、と肩を叩いたが今日中に何とかします、と言って残業をすることにした。真面目だなあと言われたけど自分が作った失敗なら、自分で取り返さないといけないと思うのは日本人として当然のように思った。
どんどん人が減っていくオフィスでキーボードを叩き続ける、また1人、また1人と帰っていく間、コーヒーを飲みたまに休憩を挟みながらも仕事は順調に終わりを迎えた。

「もう誰もいなくなったんだ」

暗くなったオフィスを見回す。
汚くなったデスクを軽く整え、帰りの支度を終えた早瀬は上着を羽織った時「まだいたんだ」の声に飛び上がるほど驚いた。とっくに人なんていないと思っていたから。

「マシュー?まだいたんですか?」
「それは僕の台詞だよ、君がいて驚いた」
「すいません、ミスがあってそれのために残ってました」
「期限も遠いし気にするほどのものだったのかな」
「そうでも、ない、ですけど…」

気になってしまうのだから仕方がない。早瀬は歯切れ悪く答えると、マシューは困った顔で微笑んだ。
甘やかすような顔だった。

「あまり思い詰めても仕方ないから、それに日本はどうか知らないけどこっちはそんな急いでいない時はゆっくりで良いんだ、分かったかな?」
「はい、その、すみませ、っ」

謝罪の言葉の途中に、マシューの指が早瀬の唇に当てられた。それ以上の言葉は許さない、と言わんばかりで早瀬もそのままま口を閉ざす。
見上げる位置にあるマシューの顔から、視線から早瀬は逃げられなくなっていた。強い眼差しが何を求めているか、早瀬は手に取るように簡単に分かってしまっていた。

「君が…そっちの人間じゃないことは分かっているよ。でももし、少しでも…僕の誘いに乗ってくれるなら、」

嬉しい、と直接耳に囁かれ早瀬は熱が全身を通り過ぎていくのが分かる。腰から崩れ落ちそうになったのをマシューが救い上げて、耳を柔らかく食む。

「ぁ、…っ、ましゅー」

歯の硬い感触が耳たぶに触れ、その奥から湿った舌が耳の中をなぞるように滑る。産毛の一本一本で感じて、早瀬は力が抜けるのを感じた。

「ふ、ぁっ…!」
「その反応は、イエスってことかな」

かわいい、と囁かれ頬に軽いキスが落とされる。
否定をする間も無く、持っていた鞄を奪い取られ、腰を抱かれてマシューはオフィスの唯一の個室の方へ向かう。
部屋に入った途端、マシューは早瀬の後頭部に手を回し、勢いよく口付ける。壁に押し付けられた早瀬は、マシューの背中に腕を回しながら必死にそのキスを受ける。

角度を変え、鼻を擦り付けながらも与えられるキスに溺れそうになる。早瀬は息を荒げながらマシューにされるがままだった。こんなにも良い男に強く求められている、その事実に顔が熱くなった。

「っ、はぁ…っん、んっ」
「ああ…っ君の唇が甘くて堪らないよ」
「…うそっ、…ぁ、あっ」

小さな赤い唇を、マシューが初めて見たとき目眩を感じるほどにセクシーだと思った。幼い顔立ちのそこだけやたらと色っぽく、未発達さを感じる肩の細さや腰の薄さ。これは平均的ですよ、と笑った顔の愛らしさ。早瀬の何もかもがマシューを捕らえて離さなかった。
ノンケなのは分かっていたし、手を出すべきではないだろうと理性が訴えていた。なのに少し視線が合えば分かりやすく動揺し、慌てて目を伏せる、その耳がほんの少し色付いていたのを見た時、マシューは自分の理性にヒビが入っていくのが分かった。

いけない、と分かっていながらランチをする早瀬にちょっかいをかけその反応を楽しんだ。日本人は流されやすい、とどこかの記事で見たが早瀬を見る限りあながち間違いではなさそうだ。

唇を離すと、薄暗い部屋の中でいつもより色づく唇が目に入る。呼吸が苦しかったのか必死に息を吸う早瀬の唇からほんの少し、舌が覗く。涙目で必死に縋り付いてきた早瀬の困ったような、艶やかな表情に、マシューの中で何かが音を立てて崩れ去る。

「ん、あっ!」

再びその唇に吸い付いたマシューは、薄く開いていた間から自分の舌を潜り込ませた。
口腔内を弄り、隅から隅まで動き回る舌に翻弄されながらも、一杯一杯になりながらも早瀬は応えていく。ぴちゃ、とたまに聞こえる水音に恥ずかしくなって逃げるように舌を引っ込めると、それに感づいてマシューの舌が追ってきて、捕まる。執拗に絡めながら、吸い付きその甘い舌に歯を立てると、早瀬がびくりと震える。
反応の良さも、マシューにとっては欲をそそるものに過ぎない。

吐息すらも飲み込み、マシューは指通りのいい髪を撫でる。
そろそろ、と唇を離すと早瀬の唇が唾液に濡れて光り、また食らいつきそうになった本能を押さえ込む。それも悪くないが、もう前が苦しくなっていた。

「ここ…触って」
「っ!」

熱く張り詰めたそこに、早瀬の手を取って導けば息を呑んで手が引っ込みそうになる。マシューは逃さずぐいっと押し付けた。

「君のせいでこんなになってしまった」

手を押し当てたまま、空いた方の手で前のベルトを緩め、下着を寛げる。ぶるんと勢いよく勃起したものが出てきて、早瀬は目を丸くしてマシューは苦笑した。いくら何でも興奮しすぎだろう、と。

いつまでも視線を離さない早瀬の手を誘導させ、熱く張り詰めたものに直接触らせる。

「っ、あ…!」
「君のと一緒に触らせて欲しい、いいかな?」
「えっ…!あの、ま、マシュー」
「ほら、頷いてくれれば良いんだ、僕に任せて、ね?」

こくり、と小さく上下した早瀬の頭をよく出来ました、と言わんばかりに軽く撫でて、そのままするすると背中や腰を撫でて、核心へと近づいていく。
ばくばくとうるさい鼓動。チャックをおろされ、大きな手が布越しに揉み込み、早瀬は内心うわああ、と叫ぶ。

「…感じてくれてるんだ、嬉しいな」

平均的なサイズのそれが、緩くたちあがっているのにマシューは目元を緩める。下着の中まで入ってきた大きな手が、むにゅりと握る。
ぐちゅっ…

「ぁ、アっ!」

高い声がマシューの腰にクる。子供に手を出してしまったような気持ちが余計に背徳感を煽る。その中で掠れた声がセクシーに響いている。

「ほら、一緒に握って」
「ぁ…おっきい、」

早瀬とマシューのものが、窓から入り込んできた月明かりに照らされる。太さも長さもあるマシューのものに比べると、やや物足りなさが目立つ気がして早瀬は羞恥にかられる。無意識に溢れた言葉に機嫌を良くしたマシューは早瀬のシャツのボタンを一つずつ外していく。白い肌が晒されて、マシューは無性にその肌を汚してしまいたくなった。まだ早い、と消えかけの理性を起こしてやる。
ぴとり、とくっついたお互いの性器を、またもマシューが早瀬の手を取って握らせる。

「ん、…はぁ、」
「こっちも触って」
「ぁ、あッ…ましゅ、」
「ああ…気持ちいいね」

ゆっくり上下に扱きながら、マシューは早瀬のとろんとした顔をじっと見つめる。時折声を上げるところが気持ちいいところのようで、それは裏筋だったり先の方だったり。くしゃりと歪んだ顔で、今にも泣き出しそうに薄く開いた唇からは「あっ…ん、あ」と漏れる。
硬く張り詰めた性器をきゅ、と握ると「はぁ、んっ」と鳴くのが可愛らしくて堪らなくなる。どうしてこんなに彼は可愛いんだろうか、マシューはそんな疑問を抱えながら赤くなっている耳元に唇を近づける。

「かわいいよ…リョウ」
「ぁ、あ…〜っ」

どちらのものか分からない先走りがぐちゅぐちゅと音を立てる。はあはあと荒い息を吐くマシューが早瀬の手ごと強く握り、勢いよく扱き始めると、先に限界に近づいたのは早瀬の方だった。こっちにきてしばらく、早瀬は目紛しい環境についていくのが精一杯で抜く時間もなかったせいだった。
ぐちゅっくちゅっ…ぐちっぐちゅっぐぢゅっ…

「っ、ぁ、あッ…まっ、はやい…ッ!」
「…っ、リョウの、えっちなところ見せて…っ」

ぐちゅっぐちゃっくちゅっ
性急な責めと激しい水音に白かった肌がうっすらとピンクになっていくのがマシューの目には艶かしく見え、そそる。

「あっ、…もう、出ちゃう…っ、あ゛ッ〜〜〜!」
「んっ、」

びくんっと震えた早瀬は勢いよく精液を吐き出し、がくん、と力が抜ける。お互いの手が汚れてしまうほど出た精液は数ヶ月ぶりのものだった。
ずりずりと壁伝いに座り込んだ早瀬は、はあ、と熱い息を溢してぼんやりと床を見つめる。
ぺちぺち、と軽く頬を叩かれ顔を上げるとまだイってないマシューが早瀬の顔をじっと見て、そのままキスをする。舌を絡めて、歯列をなぞる熱烈なキスに出したばかりだというのに腰が熱を持つのがわかる。

マシューはくったりと身体を預ける早瀬の身体を抱き抱えると、自分の使うテーブルの上に早瀬を乗せた。早瀬は冷たく硬い感触に身体を強張らせ、目の前の男を見つめた。

「マシュー…?」

早瀬は、ギンギンに張り詰めたままのマシューの本体に思わず冷や汗が流れた。

home/しおりを挟む