冷え込んできた夜、窓の外を見ると小さな白い粒がさらさらと降っていて、もうそんな時期かあと息を吐く。
床暖房、空調、暖炉、熱いチョコミルク。ふかふかのブランケットを羽織って膝を抱えたら布陣は完璧にも思える。

というか、いくら何でも重装備。

ついこの間までは暖炉しか付けてなかったのに、雪の降った日、くしゃみをして熱が出て寝込んでいたら次の日にはもう完備されていた。おかげでこんなに温い。
膝を抱えてたのを離して、ゆるゆるとテーブルに指を伸ばす。チャンネルを変えようと。

「あ…」

変えた先でやっていたのは、クリスマスのことだ。サンタがソリに乗って、それを引くトナカイ。プレゼントを受け取った子供がニコニコ笑っているのが、誰もが想像するクリスマスなんだろうなあ。
異国の地でも、こんな感じなんだ。

ちょっと汗が滲んできた。とりあえず羽織っていたブランケットを剥いで、丸めて端っこに置いたら、ガチャと玄関のドアが開く。振り返らなくても分かる、三月さんだ。

「おかえりなさい」

返事はない。
帰って来たばかりの三月さんの上着には白い斑点みたいに雪が掛かっている。基本は車移動でも、接道に止めてここまでに、あんなに降っていたのだから仕方ない。
こんな寒い日の夜も、ちゃんと三月さんが帰ってきたことにホッとしていると、三月さんの後ろから部下の人がたくさん荷物を持って入ってきた。たまに見かける人だから珍しくはないけど、その荷物の量がプレゼントを運ぶサンタ顔負けだ。

それが、ソファの前に座る俺の真横にドサドサ置かれていく。小さい物から大きな物まで、1、2、3…10、ここまで数えてやめてしまった。
どれもクリスマスらしい、赤や緑の包装紙に金色のリボンが掛けられている。
山のように積まれたプレゼントに目を丸くしていると、コートを脱いだ三月さんがソファに座った。

「これって…クリスマス、プレゼントってことですか…?」

三月さん、無言。ソファに座る三月さんを見上げると、見つめ返されるだけ。でも、何となくわかる。これはイエスってことだ。俺も何となく分かってきた。

「じゃあ、開けます…ね?」

俺にってことなら良いよね、と一応聞いてから。そうしたら三月さんは、ああ、って短く返してくれた。よかったよかった。
とりあえず小さいのから、と開けていく。

チョコレートだ。いつもと違うやつだけど。クリスマスの雰囲気らしく、ツリーの形をしている。他にも…チョコレート、チョコレート。ちょっと虫歯になりそうなくらいチョコレート。
ちょっと大きくなってくると、靴下。それから綺麗なふわふわの部屋着が出てきた。柄はないシンプルなやつだけど手触りがいい。それが3種類くらい。
更に大きい袋に入っていたのは、膝掛けサイズから覆うほどのブランケットまで。またも種類豊富。こっちは温かそうだからさっそく使って、こっちは春先とか、もうちょっと薄手のは昼寝用に使おうと左右に分けていく。

どんどん開けて、包装紙は折り畳んで重ねていく。こんなに貰ってどこに仕舞うんだろう。
また新たに開けた箱を覗き込む。
これは、ブランケットじゃなさそう。どちらかと言うとクッションに近いかも。両手でどうにか箱から取り出すと、めちゃくちゃ大きなクッション。大きすぎて、ソファの上では使いづらいやつ。

他には…クッションはなさそうなのに。
おそるおそるソファの上に乗せてみる。三月さんをちらと見上げると、クッションはソファから落とされる。え?

三月さんの腕が伸びてきて、脇の下をグッと持ち上げ、浮遊したのは一瞬、そのまま柔らかいところに着地した。つまりはクッションの上。

そっか。
そういえば、ソファにはあまり座らないでいつもこのカーペットの上に座っていたんだ。なんとなく癖で、このカーペットは柔らかいからそんなに意識したことなかったけど、三月さんから見たら床に座っているように思えたのだろうか。

お尻のとこは深く沈んで、変な体勢になっても疲れを感じない弾力性もある。すごい、こんなのあるんだ。

これはちょっと嬉しい。
腰が辛い時とかもありがたいかも。座っているけどベッドに寝てるみたいな心地になる。

「ありがとう、ございます。これ、嬉しいです」
「…そうか」

思わず笑みが溢れると、額を撫でられ流した髪の毛を耳にかけられる。外にいたのに三月さんの指先は冷たくなくて、ちょうど良いくらいだった。
三月さんの指先にちょん、と触れる。こんな完全防備な俺の方が冷たい、えええ何で…。

でも、珍しく…最中でも無いのに三月さんが指先を軽く握ってくれた。向こうの体温と俺の体温の差がどんどん縮まっていく。

ガチャ、と再び玄関のドアが開いて、そっちを見るとさっきの人がもう一袋持って立っている。目が合うと、やべ、と焦ったような顔をして「一個忘れてました」と早口になりながらドサと音を立てて置いて、バタバタと出て行く。
ど、どうしたんだろう…。

三月さんがわざわざ立ってそれを取りに行って、俺の手元に突き出す。よく見るとこれだけクリスマスカラーじゃない、黒い袋でメリークリスマスと横文字でタグがついている。何だろう、これ。

三月さんに見下ろされながら、綺麗に包装されたのを取り出して、あ、コート…?
色の薄いブラウンの、長めの丈のコート。ボタンが大きくて、フードもついてる。触り心地が良くて何度も撫でてしまう。

嬉しい。
1人で外出が出来ないし、かと言って三月さんはほぼ毎日、夜遅くに帰ってくる。ずっと家で生活している俺には、このコートが今度出掛けることを意味しているように思えたから。

「こっちは捨てるやつか」
「え?」

プレゼントをすぐ使う方、季節が変わったら使おうとした方の、左右に仕分けた片方を突然指差した三月さんに首を傾げて、そんな訳ないないと慌ててブンブン頭を振る。

「ならそっちか」
「いや、あの全部貰いますけど、えっ…?」
「……」
「今は無理でも全部使いますから、ね…!」
「…」
「こっそり捨てたりとかしないでください。こっちのちょっと薄いのは春とかに使うので、あの部屋にちゃんと仕舞っておくので」

沈黙が怖い。三月さんは物への執着があんまりないところがあるし。

捨てないで、と引き寄せると三月さんはため息をついて、分かった分かったとでも言うように首筋を撫でた。良かった。
その時だけは、三月さんの手の方が冷たくてついつい首を竦めた。

home/しおりを挟む