全寮制男子校では、男同士の恋愛に発展しやすい。滅多に会えない女子、温もりに飢えついついセフレなんてものを作りがちなこの学園で、最近やたらと耳にするキスフレンドなるものがある。セフレがセックスフレンド、つまりはセックスを楽しむ間柄を示すが、キスフレはキスを楽しむ間柄というわけで、セックスまで踏み込む気はないがキスくらいなら、という葛藤を解決することになる。

水島の定番になりつつある野菜たくさんのソース焼きそばを啜りながら、ふと小暮が持ち出した話は最近の学園の流行りのことだった。

「キスフレって知ってる?」
「は…知らねえ、…あー、セフレみたいなもんか」
「うん」

流石にヒントを与えなくても、答えに辿り着いた水島は訝しげに小暮を見た。

「それが何だよ」
「何故か流行ってる」
「へえ、風紀委員がお怒りしそうな案件だな」

木崎が鬼のような顔で風紀を乱してると怒ってる顔がすぐに浮かぶ。こういうのが流行ると凄いところは、隠れてしようではなく人目につくところで平気でキスし始めているところだ。隠れてるつもりなのかもしれないけど意外とよく見かける。

「お前もいんの?」
「何が」
「キスフレってやつ」
「いないよ」

まさか、と首を振れば「へえ」とつまらなそうに零した。いるわけないのに。

「あー、じゃあさ」
「…?」
「1人くらい欲しいだろ?」
「え」
「なってやるよ、俺が」

口に入れていた焼きそばを噴きそうになって、慌てて飲み込む。水島を見上げるとニヤニヤと笑っていて反応を楽しんでいるだけで、本気じゃないらしい。同室者とそんな関係になったら顔を合わせづらいに違いない。
よかった、と安堵し胸を撫で下ろした。

「で?」
「…何」
「キスフレ、なんの」
「冗談だと思ってたけど」
「残念」

本気だよ、と水島の低い声は机を挟んだ距離を飛び越えていた。気付いたら目の前に迫ってくる顔。反射的に体を引く前に、焼きそばを食べるために使っていた右腕を引っ張られ、一気に引きずり込まれる。
がん、とぶつかる音がする程の勢いで水島の唇に自分のそれがぶつかった。

ぬるり、と潜り込んできた生温く柔らかい感触に、しまった、と自分の失敗を察知した。
喰らい尽くす勢いで、体を引き寄せられ離れられず、ひたすらに唇を貪られる。カッと身体が熱くなるのに、ぐったりと水島の腕に身体を預けていた。

「ん、…んっ、ぅ」

息が出来ず、苦しいのを悟った水島が離れてくれたと思いきや、ぷは、と息を吸い込んだ途端また開いた口に舌を滑らせてきた。

「ふぅ、う…みず、…っしま、」
「…何」
「んー…っ、まっ、て…!」

考える余地すら奪うほど、頭が真っ白になってふわふわとした奇妙で心地いい感覚が身体にじんわり広がっていく。

「ぅ、ん…ッ」

顔の熱を奪うように軽く頬を撫でられ、その感触に氷みたいにじんわり溶けていく。くすぐったくて身をよじるとそれに目を細めて笑われて、何だか恥ずかしくなる。

そんな些細な触れ合いに体の力が抜けて足が震えて、ただ水島の腕に縋り付くように捕まるとようやく解放された。
何度も呼吸を繰り返してようやく顔を上げると、意地の悪い顔をした水島が獲物を前にしたみたいに舌なめずりしたのを見た。

「悪くねえな」

これから毎日楽しみだなァ、の一言にただの気の合う同室者の関係が崩壊の一途を辿る予感がした。

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