英語が並ぶ画面を見ても、ほとんどの意味は分からない。たまに知っている単語はあってもそれだけで、文章の意味は分からないからアニメとかドラマとか、そういう映像で補えるのばかりを見ている。
毎週見ている学園ドラマはやたらと男子同士のキャラが近い。これって所謂BLってやつ?恥ずかしいようでドキドキしながら見てると、なんか三月さんは見せたくないのか、家にいる時はすぐにチャンネルを変えられる。
今は三月さん二階にいるから、変えていたチャンネルをそのドラマに合わせてぼんやり見ていると、何故かとあるワードが鮮明に耳に届いた。

「キス、フレンズ…?」

キス友達?ってどういうことだろう、と思わず画面をじっと見つめていると男同士のクラスメートの仲良し2人が何故か顔を近づけはじめた。
え…?こんなの地上波でやるの?ドキドキしながらも画面から目が離せないでいると、その顔があと数センチでくっつくというところで、画面がいきなり急に変わった。

振り向くといつのまにか三月さんがソファの後ろにいてチャンネル片手にこちらを見ている。怒っているわけじゃない、相変わらず何を考えているか分からないけど。

三月さんと俺はそれなりにエッチもするのに、こういう番組はあんまり見せたくないのかな。ちょっとお母さんみたいだ。

「三月さん」

テレビに視線を戻せばテロップが流れ続けるニュース番組になっている。俺の疑問は多分三月さんに聞かないと解決しない。

「キス、フレンズって何ですか」
「……」

果たして三月さんが答えてくれるか、むしろそっちの方が気になるくらいだ。微かに眉尻を上げて奇妙なものでも見るような目でじっと見つめられる。気持ちとしては、やっぱりあのドラマは見れないようにするべきだったか…とか考えてそう。
三月さん優しいし。

変な沈黙がリビングを包んでいて、これはいつ終わるのかなと興味が湧いてくる。
と思ってたら三月さんは溜息をついて、人差し指でちょいちょいと俺を呼ぶ仕草をする。最近よくするけど俺のことペットか何かだと思ってる?
呼ばれるがまま、ソファに身体を乗せて三月さんの方に近づくと、三月さんの方もどんどん顔が近づいてきて。
あっ。

ちう、と間抜けな音とともにキスされ、何度も何度も角度を変えて、たまに呼吸の間を置いて、唇がくっつき合う。時折三月さんの吐息が唇にかかって、俺のもそうなっていると思うと顔が熱くなる。

「ん、んっ」

膝立ちでソファに乗る俺の首は最大限伸びているし、三月さんは俺に合わせるために少し屈んでいる。触れ合うだけのキスだった。
エッチの合間に勢いで深いキスをすることはあるけど数える程かもしれない。こういう日常の合間にはした事がない。ハグとかもない、接触は最低限。たまに頬をこすられたりするけどそれは愛玩具みたいな扱いにも思えた。
それがお互いの自然みたいなものだから。

だから、余計に新鮮で小恥ずかしい。

「みつき、さん、んっ…」
「…こういう事だ」

こういう事って、どういう事だろう。キスしただけで俺にはさっぱりよく分からないんだけど。俺がバカだからかな。

「分かったか」

三月さんの闇のように暗い瞳に覗き込まれ、俺はぼんやりそれを見つめてから、ぶんぶんと首を振る。いや、全然わからないよ三月さん。
そんな俺の様子に、分かるまで教えてやる、と言って少しだけ笑った三月さんは戯れみたいなキスをまた再開させた。

その日1日は、何度も何度もキスをしていたけど、結局俺にはキスフレンズとやらの意味はイマイチ分からないままだった。

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